リン酸亜鉛系皮膜は塗装下地用以外に、潤滑処理と組み合わせることによって、潤滑皮膜としても適用されることが多いです。
高加工度の冷間鍛造の場合、油潤滑では金属同士の接触面積が大きくなるので、焼き付きが発生しやすくなり、また工具の寿命も短くなってしまいます。このため、鋼にリン酸亜鉛系皮膜を化生し、その上層に潤滑皮膜として石鹸(金属石鹸を含む)または二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を塗布する方法が一般的に行われています。塑性加工用の固体潤滑皮膜処理としては、リン酸塩皮膜にステアリン酸ナトリウム石鹸処理が行われることが多く、その際リン酸塩皮膜の上層には金属石鹸皮膜が生成します。
このように反応生成した金属石鹸は、リン酸亜鉛系皮膜によく保持されており、下地のリン酸亜鉛系皮膜とともに良好な潤滑性と耐焼き付き性を示します。
なお、石鹸との反応性はリン酸塩皮膜の種類によって異なり、リン酸亜鉛系皮膜はその中でも最も高い反応性を示します。これが、塑性加工用潤滑皮膜の下地処理としてリン酸亜鉛系処理が用いられる一つの理由です。