金属の腐食は、局部電池の形成による電気化学反応であり、anode(陽極)では金属の溶解反応が起こり、cathode(陰極)では中性で酸素の存在する条件では水酸化物イオンが生成します。
anode反応とcathode反応は、必ず等しい速度で進行し金属の溶解速度に相当する腐食電流が溶液中をanodeからcathodeに向かって流れます。
鉄面に塗装を行うことにより、このanodeとcathodeの両極の間を高抵抗の塗膜で被覆し両極間に高抵抗を挿入したことになるので腐食電流は減少します。また塗膜下で起こる腐食反応をanode反応、あるいはcathode反応の分極を大きくすることにより抑制します。これらの防食作用には塗膜の透過性、防錆顔料の作用などが重要な役割を果たします。
一般に塗膜は電気抵抗が高いので、ごく特殊な場合を除いてほとんどすべての場合その金属の腐食を軽減することができます。
金属の腐食を少しでも軽減する性質のあるものを全て防食塗料ということができますが、現在ではより積極的に、金属の腐食を防止するために防錆顔料や塗膜の透過度の小さい展色剤(ビヒクル)を用いた塗料を防食塗料と呼んでいます。
防食を目的とする塗料にはいろいろな用途があり、用いられる対象により必要とされる性状も異なったものとなりますが、一般に防食塗料の塗装のシステムとしては次のような機能が要求されます。
(1)塗膜が水や酸素などの腐食の原因となる物質を透過し難いこと。
(2)塗膜を透過して浸入した水や酸素などの腐食の原因となる物質を、無害にする成分を塗膜中に含んでいること。
(3)塗膜のおかれる条件に耐える耐候性、耐水性、耐薬品性などを有すること。
(4)必要な美観を保つこと。
これらのすべてが必要とされる機能を満たすためには、1回の塗装、あるいは同種塗料の塗り重ねで満足する結果が得られることもありますが、一般にはそれぞれに違った性能を持つ塗料を数種類塗り重ねることにより、塗装系全体で必要な性能を発揮させるようにしています。
すなわち、防食用に使われる塗料には、通常鉄面に防食性能と付着性の優れた塗料を直接塗装し、上塗りには耐候性や、腐食性物質の侵入遮断機能が優れた塗料を塗装します。両者の間に中塗りを塗装して相互の付着を助け、全体としての塗膜物性の調和を保つようにする場合が多いです。このような塗料の組み合わせを塗装系と呼びます。
下塗り・中塗り・上塗りは同一または近似の展色剤(ビヒクル)による塗料を一貫して使用する場合が多いですが、上塗りの要求性能や塗装工程の都合によって、異なる系統の塗料を使用することもあります。
塗装の防食効果は下塗り塗料に依存するところが大きいので、従来鋼構造物の防錆防食塗装では、下塗りの防食塗料の研究に力がそそがれてきました。しかし近年は、塗装系全体としての防食効果の向上、金属溶射(メタリコン)、めっきなど他の防食法の併用も考慮されています。