熱媒体とは、文字通り「伝熱のための媒体」であり、広義には恩師・スチームやエチレングリコール等の冷媒を含むことになりますが、ここでは化学装置等の高温(200~400℃)に加熱するための有機系熱媒体を中心に取り上げます。
工業的な加熱方法として、化石燃料の燃焼熱等を利用した「直接加熱」と、これらの燃焼熱に熱媒体を介した「間接加熱」があります。熱媒体を使用した後者は、局部加熱を防ぎ、均一加熱が可能であり、温度調節が容易な利点があるため、非常に広く用いられています。
加熱方法は、歴史的には直接加熱から温水・スチームを用いた間接加熱となり、有機系熱媒体の登場となります。最初は、(ビフェニル+ジフェニルエーテル)系熱媒体(融点12℃)であり、耐熱性は非常によいのですが、融点の問題から低温での取り扱いが難しいところがありました。この点を改良するために、その後アルキルナフタレン系やアルキルビフェニル系の熱媒体が登場することになりました。この間に、難燃性、熱安定性の面から抜群の性能をもって広く使用されていたPCB(ポリ塩化ビフェニル)が、カネミ油症事件を契機に使用禁止となりました。これによって、安全性の高い有機系熱媒体の開発に拍車がかかった経緯もあります。また、この事件からPCB以外の熱媒体も、食品分野には使用されることはなくなりましたが、化学工業分野を主として用途は広く、ポリエステル、ポリスチレン等樹脂の重合、化学品の合成、塩素化反応等の各種反応、カレンダーロールの加熱、あるいは熱回収システム、ビルの冷暖房、廃プラスチック油化設備などに用いられます。