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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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電着機構



電着塗装は現象的には、電気泳動(Electrophoresis)、電気析出(Electrodeposition)、電気浸透(Electroosmosis)、電気分解(Electrolysis)の4つの現象が組み合わされたもので、前二者は極板付近における塗料粒子の移動にあずかり、後二者は付着にあずかる現象です。
 すなわち、アニオン系水溶性樹脂塗料について考察してみると、この塗料はあみん類で中和された親水性合成樹脂と顔料及び少量の添加剤よりなり、これが水を媒体として塗料状態に分散されたもので、塗料液中で顔料は樹脂を吸着し安定なコロイド状態を保ち、樹脂の一部は高分子電解質としてイオン状態に解離していると考えられます。塗料は顔料を中心に樹脂を吸着し、その界面において電気二重層を形成し、全体として負の電荷をもった塗料粒子と、その他少量と思われるイオン化樹脂陰イオンおよびアンモニウム陽イオン、ほか金属イオンよりなり、これらが混在状態にあると考えられます。これに両端板より直流電位差が与えられると、負に荷電またはイオン化している塗料主成分は陽極側に(被塗物)に移行し、逆に正の荷電またはイオン化している成分は、陰極に移行します。
 陽極側(被塗物)に付着した塗料粒子(顔料を抱いた樹脂)は放電し粒子自身に電荷を失い、樹脂は元の水不溶性に戻るとともに陽極反応における酸化反応を受け、ますます水不溶化が進み、均一な樹脂膜を形成します。するとそれが隔膜となって電気浸透現象によって塗膜内の水分は外部に押し出され、塗膜の脱水が自動的に行われます。したがって、塗膜は激しく水洗しても溶出せず、また塗膜中の含水量も5~8%程度になっています。

JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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電着用塗料の概要



電着用塗料とは、電着塗装法によって最適かつ効率の良い仕上げができるように調整された水溶性または水分散性塗料であり、電着塗装法とは、Electro-Deposition(ED塗装)あるいはElectro-Coating(EC塗装)ともいわれ、水溶性または水分散性塗料が、水中で電荷していることを利用し、被塗物を一方の電極とし、塗料浴中に浸漬し、対極間に直流電流を流すと、水中に分散している塗料の微粒子は電気的な力によって被塗物に引き付けられて、その上に塗膜が析出します。この塗装法によれば、塗料は被塗物の狭い空隙、合わせ目まで入っていき、全表面に均一な膜厚で塗装され、通電後、塗料浴から引き上げたとき、水に不溶で、かつ含水率の少ない塗膜が得られ。経済的で完全な焼き付けを行うことができます。利点を次に示します。

 (1)作業者の熟練度に関係なく、設定条件により、所期の膜厚を均一に、定常的に得ることができます。
 (2)塗装作業の自動化に適している。
 (3)塗料のロスがありません。
 (4)タレ、流れ、タマリやベーパーウォッシュがなく、塗着膜はセッティングなしで焼き付けても発泡しません。
 (5)引火性、毒性などの少ないことは、ほかの水性塗料と同様です。
 (6)形状が複雑な被塗物の入り組んだ部分にも塗着します。

 電着塗料を電着機構から分類するとアニオン系電着塗料とカチオン系電着塗料に大別することができます。前者は従来自動車プライマー用としてポリカルボン酸樹脂をビヒクルとしたもので、塗料自身が負(-)に荷電するもので、後者はポリアミノ樹脂をベースとして、塗料自身が正(+)荷電するもので、アニオン系電着塗料に比べて、自動車の防食性プライマーとしては極めて優れた性能を発揮します。

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電着塗料用樹脂の化学:カチオン電着塗料



①エポキシ樹脂
 エポキシ樹脂ベースの電着塗料が開発されて、鉄鋼材料の耐食性向上に寄与したために、カチオン電着塗装が常に優れていると思われがちではありますが、必ずしもそうではありません。カチオン電着塗料の高耐食性を実現させたのは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をベースに使用したことによります。この樹脂は耐薬品性や靱性に優れます。
 一般にエポキシ樹脂の変性反応は、樹脂末端のオキソラン環を利用します。すなわちオキソラン環は三員環でひずみが大きいため、求核試薬による開環付加反応が非常に容易に起こります。エポキシ樹脂をカチオン化するために通常、アミンやアルカノールアミンを付加しますが、アンモニア、ジアミン、ケチミン、および有機酸とのアンモニウム塩などを付加する方法も知られています。
 塗膜性能は分子量、エポキシ当量、アミン当量などに依存します。エポキシ樹脂単独では塗膜の機械的物性、塗膜仕上がり、ラインでの作業性など、耐食性以外の諸性能が良くありません。特にエポキシ当量の大きなビスフェノールA型エポキシ樹脂は硬質で、屈曲性などの機械的性質が悪いです。これを改良するためにアクリル、ポリエーテル、ポリエステルなどのポリオール樹脂、ポリアミド樹脂、液状ポリブタジエンの末端カルボキシル化物、オレイン酸などの脂肪酸が変性剤として使用されます。ポリオールなどの水酸基含有化物は、硬化反応に関与するだけではなく、可塑剤やフロー改良材としても働きます。

②アクリル樹脂
 アクリルカチオン樹脂も、メタクリル酸メチルを主体としたアクリル共重合体をベースとしています。アクリル樹脂をカチオン化する方法は、アミノ基を含有するアクリルモノマーの共重合、グリシジル基含有アクリル共重合体へのアミン付加、などがあります。
 アクリルカチオン塗料は、エポキシカチオン塗料に比較すると耐食性が悪いので、改良するためにエポキシ樹脂を混合し、耐候性や耐食性のバランスを取りながら配合量を決めます。

③カチオン電着塗料用架橋剤
 カチオン電着塗料では、ブロックイソシアネートによるウレタン硬化が一般的ではありますが、酸化重合やエステル交換反応による硬化方法、さらにこれらを複合した硬化方法が利用されています。
 イソシアネート基は、水や活性水素基との反応性が高いためそのままの状態で水系塗料として使用することは不可能であり、ブロック化イソシアネートとして安定な状態で使用します。活性基をマスクし、不活性基に変換して貯蔵安定性を改善します。逆に活性基が必要な場合は、加熱などによって不活性基からマスキング剤を脱離して活性基を再生します。このようなマスキング剤をブロック剤といいます。
 一般に電着で使用されるブロック剤はアルコール、カプロラクタム、オキシムなどがあります。
 イソシアネートには芳香族、脂肪族、および脂環族があります。芳香族系イソシアネートは反応性が高くて安価ですが、黄変性や耐候性が悪いです。脂肪族および脂環族系イソシアネートは非黄変性で、耐候性に優れています。
 イソシアネートは、アミノ基や水酸基と反応して尿素化やウレタン化します。カチオン電着塗料の硬化はカチオン化のために導入された1級および2級アミノ基、および(または)水酸基と再生したイソシアネートが反応することによります。

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