塗料による防食作用は、塗膜の透過性を小さくすることにより腐食を起こさせる物質の浸入をできるだけ抑制し、万一浸入があった場合にはその物質を無害にしてしまうことであるというのは「
塗料による防食」で述べたとおりです。
このため防食塗料は、下塗り・中塗り・上塗りのそれぞれが防食作用を果たす組成となっています。
防食塗装系のうち、特に下塗りとして使われる防食塗料は「さび止め塗料」と一般に呼ばれ、直接被塗物に接するため塗装系全体の防食性能に与える影響は大きいです。
このさび止めペイントに要求される性質として次のものが挙げられます。
(1)耐水性、耐湿性がよいこと。
さびの発生に不可欠である水と酸素を通さないことが第一です。塗膜は透水性・酸素透過性が小さいと共に、吸水性が小さくなければなりません。また塗膜からの水可溶物が多すぎたり、腐食を促進するものであってはなりません。
(2)耐イオン透過性、耐酸、耐アルカリ性が良いこと。
亜硫酸ガス、塩素ガス、炭酸ガス、塩化物、硫酸塩、酸、アルカリなどの腐食を促進する物質を通さず、またこれによって塗膜が劣化しないことが大切です。
(3)物理的性質が優れていること。
塗膜の硬度、弾性が大きく、衝撃や摩擦によって塗膜にきず、亀裂が生じにくく、またたとえそれらが生じてそこからさびが発生しても、広がらないだけの強じんさがあることが望ましいです。
(4)耐候性、耐久性が良いこと。
塗装初期にいかにさび止め効果が大きくても、風雨や日光にさらされるなどして短期間にさび止め効果が失われてはなりません。
(5)塗装作業性が良いこと。
塗りにくい塗料は、塗膜の肌が悪くなり、塗りむら、ピンホール(穴)などを生じやすく、さび止め効果が発揮できなくなります。
(6)被塗物、中塗り、上塗りに対する密着性が良いこと。
特殊なものを除けば、大部分の塗料は鉄面に塗装すればある程度のさび止め効果は期待し得るものです。しかし防食塗料は、それ以上積極的に防食性能を向上させるように特別な組成を有する塗料です。腐食環境、耐久性、防食性などがどの程度期待されるかは個々の対象ごとに異なるので、多くの種類の塗料が含まれることになります。