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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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撥水性と親水性



《撥水性と親水性》

 固体表面の”濡れ性の制御”は物理と科学の境界に位置する工学技術であって、その応用範囲はあらゆる産業分野に及びます。固体表面の濡れは、ヤングの式に基づいて接触角の測定などから求められる、いわゆる”静的な濡れ特性”と、固体表面の組成や構造との関係が主に検討され、表面組成、表面の粗さや形状、電界などの外部場などが影響することが知られています。一方で、撥水性及び親水性を固体表面に付与する目的は、固体表面の液体の流動制御(除去や保持)および液体を介した表面上の物質の除去を意図するものであり、これらの新しい表面利用を工学的に検討していく場合、”濡れ性の制御”を施した表面上での流体挙動を詳細に把握していかなければなりません。
 撥水性表面は、固体と液体の相互作用を低減し、防滴、防錆、着雪着氷防止、風合い付与など様々な機能を固体表面に付与する目的で、幅広く利用されてきました。従来、撥水機能の評価や比較には、接触角の大きさに主眼が置かれていましたが、2000年代に入り、建築や輸送機械などの産業分野で、液滴の除去性能、すなわち”動的”な濡れの重要性が認識され始めました。それまでの”動的な濡れ性”の評価には、主に転落角や、転落時の接触角ヒステリシスが用いられてきましたが、これらは固体―液体―気体界面で取りうるエネルギーバランスの限界を示すものであり、「時間」の概念を含まない「熱力学」的な特性です。工業製品では、機能やデザインの観点から表面の角度が決められる場合がほどんどであるため、「転落角:何度の傾斜閣で水滴が転落するか?」よりも、「転落(加)速度:ある決まった傾斜角度でどれくらいの速さで水滴が除去されるか?」という観点の方が、表面利用上の重要性が高い場合が多いのです。特に、水の接触角が150°を超える表面は”超撥水性表面”と呼ばれ、その表面を転落する水滴は、一般的に、転落する速度が大きく、計測可能な範囲での転落距離では等加速度的な運動をすることが報告されています。”超撥水性表面"は、低エネルギー表面に微細構造を付与することで得ることが、Lotus effect(蓮の葉効果)といわれるように、バイオミメティクスの代表例として示されています。一方で、実用上では耐久性に問題があり、①表面微細構造への砂塵などの噛み込み、②物理的力による表面微細構造の破壊、③高い表面エネルギーを有する物質の付着、④紫外線による撥水剤の分解・脱離、⑤生電力による砂塵などの捕集などがその要因として挙げられ、それらの解決のために様々な試みが行われています。例えば、固体表面上に付着した汚染物質を分解するために二酸化チタン添加する試みが行われ、一定の効果が確認されていますが、撥水剤や結合材の分解を引き起こすというジレンマもあります。また、表面微細構造への砂塵などの噛み込みは避けることができません。そのほかに、大きさの異なる表面粗さの組み合わせで微細構造の強化を図った例もありますが、実用に耐えうる十分な耐久性はまだ得られておらず、このことが超撥水の適用範囲を制限する大きな要因になっています。
 一方、超撥水性表面上の水滴の挙動は流線形の形態変化を伴うことから、しばしば高速度カメラでとらえられた印象的な映像を目にすることも多いです。ゆえに、我々の身近な水滴を観察する限りでは、ころころ水滴が転がるような”超撥水性表面”と完全に濡れ広がるような”超親水性表面”を比較した場合、”超撥水性表面”を用いた方が固液界面における流体摩擦の低減効果(例えば、パイプの中に水を流す際の圧力損失の抑制)が大きいと思われることが多いかもしれません。流体と固体表面との間の流体摩擦の低減は、省エネルギーの観点から流体工学における重要な課題の一つであり、様々な観点から、長年にわたってこの課題の解決が試みられています。”超撥水性表面”は、レイノルズ数の小さい層流下では、流体摩擦の低減に寄与することが知られています。これは、水中の”超撥水性表面”の微細構造に存在する空気層が、液体の滑り面として作用することによります。つまり、この機能の発現は、空気層の存在によって支配され、流体の表面エネルギーやる流量に依存します。その対極にある”超親水性表面(水の接触角が10°未満)”は、二酸化チタン光触媒能(光誘起超親水性)の一つとして知られています。1997年にWangらにより報告されて以降、二酸化チタン光触媒をコーティングしてセルフクリーニング機能を付与された材料が、主に建材市場で広く実用化されています。摩擦力顕微鏡(Frictional Force Microscope)及びIR分光法を用いた最近の研究では、UV照射下での二酸化チタン表面に水分子が強く吸着することが確認されています。このような表面では、液/液界面がスリップ境界をもたらし、流体摩擦を低減させる可能性があります。

JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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糸状腐食(filiform corrosion)



糸状腐食とは、濃淡電池腐食の一種で、塗膜下の金属面に糸状に進行する腐食をいいます。塗膜による環境遮断効果が弱い薄膜の場合に生じやすいです。
 素地が鉄の場合、糸状さびの先端のふくれを生じた箇所は青色のさび(2価鉄イオン)を形成し、アノード反応が始まっている状態を示します。ふくれの後方部分はふくれ形成後腐食に十分な水分、酸素が供給され、安定な褐色の3価鉄腐食生成物(Fe2O3・nH2Oなど)が生成されカソードになります。これらの間に局部電池が形成され、その電位差は約0.2mVであり0.3mVを超えることはないことがW.H.Slabaughらにより測定されています。先端は常にアノードになり、腐食進行に見合う水分や酸素も比較的容易に供給されているため次々に局部電池が先端側に移動し、一方向に選択的にふくれが進行して糸状を呈します。膜厚が厚い場合や水分が非常に多い環境では同じ原理の腐食でも通常の丸いふくれ現象になりやすい傾向にあります。

関連用語:塗膜下腐食

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塗膜下腐食(under film corrosion)



塗膜下腐食とは、塗膜の下で起こる腐食をいいます。Funkeは塗膜下腐食によるさびやふくれの発生機構について以下のように説明しています。

〈ⅰ〉水蒸気(水分)と酸素が塗膜を通過する。酸素の透過速度は水に比べて遅い。塗膜と鋼材界面に水分層が形成される。
〈ⅱ〉塗膜下の鋼材上に局部電池が形成され、アノードではFe2+、カソードではOH-がそれぞれ生成される。Fe2+とOH-により水酸化鉄が生成し、沈殿する。2価の鉄化合物は塗膜を透過した酸素によって容易に3価に変化する。
〈ⅲ〉塗膜下に形成されたさび層により酸素透過が抑制され、アノードに変化し、水の浸透によりふくれが発生する。
〈ⅳ〉カソードで生成したOH-とアノードから拡散してきたFe2+が反応し、カソードにさびが形成されるとともにふくれが成長する。

 なお、塗膜のふくれは塗膜下腐食以外に浸透圧や塗膜の膨潤によっても発生すると言われています。



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