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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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アニオン系電着塗料と電着特性(電着効率・スローイングパワー・ターンオーバー)



▽概要
 アニオン系電着塗料に用いられる水系塗料は、水溶性または水分散性タイプのもので、分子中にカルボキシル基を持ち、酸価が高く、アンモニア、有機アミンまたは無機塩基などで中和されているものです。したがって、本質的には一般水系塗料と変わりませんが、電着塗装の特徴的な特性であるつき廻り性(スローイングパワー)、電着効率、ターンオーバーの安定性が良いことです。

▽電着効率(クーロン効率)
 塗膜形成の速さまたは付着塗膜の厚みは、通電した電気量に比例します。すなわち電着の効率の良否を判断するのに1クーロン(1アンペア×1秒の電気量)あたり付着する塗膜の重量(mg)をもって示し、電着効率と仮称し、通常15~20mgほどの値となります。大きいものは電着効率が良いことになり、低電流(低電圧)短時間で所要の塗膜厚が得られます。

▽スローイングパワー(Throwing Power)
 塗料のつき廻り性ともいわれ、複雑な形状の被塗物の合わせ目、ポケット、くぼみ、および箱状部分の内部まで均一に塗膜が付着するのを評価するメジャーして用いています。電気の作用で塗料粒子または樹脂イオンを付着させる場合には、対電極から被塗面までの距離の長短、または、電気力線分布の粗密により、付着速度が部分的に異なります。
 この付着量の比を重量百分率で表わした値をスローイングパワー値と称し、この値の大きいものほどつき廻り性が良いとします。スローイングパワーの測定法は色々ありますが、測定した値が通常70~90%を示せば、実用上支障はありません。

▽槽内塗料の安定性
 電着が進行するにつれて、陽極に発生した酸素や、浴中に混入する空気により、電着塗料中の樹脂が酸化重合され、高分子化したり、あるいは槽内液中のアルカリにより加水分解されて低分子化してしまいます。そのため、初期の樹脂の分子量分布と幾分ずれたものになり、電着がスムーズに進行しなくなります。一方電着進行するにつれて槽内塗料は、被塗物の大きさ、数量、通電時間などにより消費されていきます。この消費の度合いをターンオーバー値(槽内塗料の回転率)、すなわち槽内塗料の塗膜形成成分総量に対する消費された塗膜形成成分総量の比で表します。ふつう1か月0.3以上を必要とし、少ないと安定したライン稼働が期待できないとされており、ターンオーバーが遅い塗槽内塗料の消費と分解のバランスが崩れ電着がスムーズに進行しなくなります。

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電着機構



電着塗装は現象的には、電気泳動(Electrophoresis)、電気析出(Electrodeposition)、電気浸透(Electroosmosis)、電気分解(Electrolysis)の4つの現象が組み合わされたもので、前二者は極板付近における塗料粒子の移動にあずかり、後二者は付着にあずかる現象です。
 すなわち、アニオン系水溶性樹脂塗料について考察してみると、この塗料はあみん類で中和された親水性合成樹脂と顔料及び少量の添加剤よりなり、これが水を媒体として塗料状態に分散されたもので、塗料液中で顔料は樹脂を吸着し安定なコロイド状態を保ち、樹脂の一部は高分子電解質としてイオン状態に解離していると考えられます。塗料は顔料を中心に樹脂を吸着し、その界面において電気二重層を形成し、全体として負の電荷をもった塗料粒子と、その他少量と思われるイオン化樹脂陰イオンおよびアンモニウム陽イオン、ほか金属イオンよりなり、これらが混在状態にあると考えられます。これに両端板より直流電位差が与えられると、負に荷電またはイオン化している塗料主成分は陽極側に(被塗物)に移行し、逆に正の荷電またはイオン化している成分は、陰極に移行します。
 陽極側(被塗物)に付着した塗料粒子(顔料を抱いた樹脂)は放電し粒子自身に電荷を失い、樹脂は元の水不溶性に戻るとともに陽極反応における酸化反応を受け、ますます水不溶化が進み、均一な樹脂膜を形成します。するとそれが隔膜となって電気浸透現象によって塗膜内の水分は外部に押し出され、塗膜の脱水が自動的に行われます。したがって、塗膜は激しく水洗しても溶出せず、また塗膜中の含水量も5~8%程度になっています。

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電着用塗料の概要



電着用塗料とは、電着塗装法によって最適かつ効率の良い仕上げができるように調整された水溶性または水分散性塗料であり、電着塗装法とは、Electro-Deposition(ED塗装)あるいはElectro-Coating(EC塗装)ともいわれ、水溶性または水分散性塗料が、水中で電荷していることを利用し、被塗物を一方の電極とし、塗料浴中に浸漬し、対極間に直流電流を流すと、水中に分散している塗料の微粒子は電気的な力によって被塗物に引き付けられて、その上に塗膜が析出します。この塗装法によれば、塗料は被塗物の狭い空隙、合わせ目まで入っていき、全表面に均一な膜厚で塗装され、通電後、塗料浴から引き上げたとき、水に不溶で、かつ含水率の少ない塗膜が得られ。経済的で完全な焼き付けを行うことができます。利点を次に示します。

 (1)作業者の熟練度に関係なく、設定条件により、所期の膜厚を均一に、定常的に得ることができます。
 (2)塗装作業の自動化に適している。
 (3)塗料のロスがありません。
 (4)タレ、流れ、タマリやベーパーウォッシュがなく、塗着膜はセッティングなしで焼き付けても発泡しません。
 (5)引火性、毒性などの少ないことは、ほかの水性塗料と同様です。
 (6)形状が複雑な被塗物の入り組んだ部分にも塗着します。

 電着塗料を電着機構から分類するとアニオン系電着塗料とカチオン系電着塗料に大別することができます。前者は従来自動車プライマー用としてポリカルボン酸樹脂をビヒクルとしたもので、塗料自身が負(-)に荷電するもので、後者はポリアミノ樹脂をベースとして、塗料自身が正(+)荷電するもので、アニオン系電着塗料に比べて、自動車の防食性プライマーとしては極めて優れた性能を発揮します。

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