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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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【塗膜の組成と付着性】重合度の影響



《ビヒクルの分子量と付着性の関連》

 付着強度がビヒクルの分子量に支配されることは、よく知られています。その報告例について、いくつかを下記に示します。

〈ⅰ〉種々の重合度のポリビニルブチラールをジュラルミンに圧着したときの付着強度を時間的に求めた際、圧着時間が長くなると付着強度が増大しましたが、いずれの圧着時間の場合にも、重合度700~800付近に付着強度の最大値が現れた。それよりも大きい重合度の試料では試験片の破壊が付着破壊であるのに対して、それよりも小さい重合度では試験片の破壊は凝集破壊が生起していた。
〈ⅱ〉ポリ酢酸ビニルでアルミニウムを接着するとき、重合度の増大とともに、剥離強度が増大した。
〈ⅲ〉鋼―鋼をポリ酢酸ビニルで接着して引張強度を測定し、接着剤の厚さ0に外挿して有効付着強度(effective adhesion)を求め、分子量との関係を検討した結果、付着強度は極限粘度0.5までは、極限粘度の増加とともに増大したが、それ以上では一定になる。

 以上の例から明らかなように、分子量の影響は次の二つのタイプに大別されます。
①ビヒクル高分子の分子量とともに付着強度が増大する。
②ビヒクル高分子の分子量がある値以上になると、付着強度が急速に低下する。

《ビヒクル高分子の凝集力と付着力からの考察》

 このことに関して、付着強度はビヒクル高分子の凝集力と付着力の関係からすでに考察されています。すなわち、高分子の凝集力が引っ張り強度で表されると仮定すると、凝集力と重合度との間には次の関係が成立します。
 σ=σ-(K/Mw)
 ここで、σ:ある重合度の高分子の引っ張り強度
     σ:重合度無限大の高分子の引っ張り強度
     K:定数

 一方、固体表面への液体(塗料)のひろがりは流動度によって決まります。流動度は粘度ηの逆数であり、分子量Mwと粘度との間にはBuecheの3.4乗の法則がよく知られており、流動度は分子量の増大とともに低下します。
 logη=3.4logMw+C

 したがって、付着力は流動度に比例すると仮定すると、付着力は分子量の3.4乗に比例して低下するはずです。

 破壊は最も弱い場所で起こりますから、分子量の小さい間は被塗物に対する付着力の方が凝集力よりも大きいので、破壊は塗膜の破壊となり、付着強度は分子量の増大とともに増加します。しかし、ある分子量以上になると凝集力は増大しますが、付着強度は低下します。これが②のタイプです。ここで、付着力の方が凝集力よりも常に大きければ、破壊は常に塗膜層の破壊となるため、付着強度は分子量の増大とともに増して、ついに平衡に達します。これが①のタイプです。

《重合度と付着性向上のアプローチ》

 低重合度成分の熱運動によるぬれ効果と、高重合度成分による凝集力の効果とを組み合わせられるならば、重合度の均一なものよりも付着性を向上させることができると想定されます。
 この点について、重合度の異なる2種類のポリビニルブチラールを種々の割合に混合してジュラルミンに圧着したときの付着強度を求める検討がなされています。その結果、付着強度の向上は、低重合度成分に少量の高重合度成分を混合する場合に特に顕著であり、高重合度成分の添加が被膜の凝集力を向上させ、付着強度の増大に寄与することが示されました。

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【塗膜の組成と付着性】ビヒクル高分子の側鎖の影響



高分子の極性の性質は塗膜の性質を決める一つの要素であり、付着性も側鎖によって影響されます。種々のポリビニルアセタールで重合度がほぼ同じ場合には、付着性はポリビニルホルマールやポリビニルアセタールよりも、ポリビニルブチラールの方が良好であり、ポリビニルブチラールは接着剤やウォッシュプライマーとして用いられ、安全ガラスの接着に応用されていることで有名です。
 メチルメタクリレート:コモノマー=9:1の共重合体の剥離強度に及ぼすコモノマーの側鎖の炭素原子数の影響について、アクリレート系及びメタクリレート系のいずれも、側鎖の炭素原子数の増大とともに、剥離強度は増大します。また、コモノマーはメタクリレート系よりもアクリレート系を共重合するほうが、剥離強度は大きくなります。表はメチルメタクリレートと各種メタクリレート系モノマーを10%共重合した共重合体の剥離強度を示したものになりますが、側鎖によって付着性の変化することが認められます。

表.メチルメタクリレート系共重合体の付着性に及ぼす側鎖の影響

コモノマー剥離強度
CH2=C(CH3)CO2CH2CF390g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH3170g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH2CN170g
CH2=C(CH3)CO2CH2(CH3)2OSi(CH3)3210g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH2Cl220g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH2Br260g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH(OH)CH3260g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH2OH270g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH2-Ph290g
CH2=C(CH3)CO2CH2-Ph350g
CH2=C(CH3)CO2CH2CH2OCH2CH3360g
※ポリメチルメタクリレートの剥離強度:160g
 コモノマー量:10mol%

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【塗膜の組成と付着性】高分子の極性



《はじめに》

 ガラスや金属酸化物などの金属固体表面には、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの極性樹脂がよく付着することが知られています。一般的には、高分子の極性または分子構造の似た者同士はよく溶け合い、付着も良好です。塗装される対象は主として金属、木材などでありますから、塗膜分子中には極性基のあることが望ましく、経験的にもカルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミド結合のような極性基を有する樹脂の付着性が良好です。

《付着性と極性基濃度》

 金属とエポキシ樹脂との付着においては、エポキシ樹脂-金属間に水素結合を生じるといいます。これまでに、エポキシ樹脂とアルミニウムとの付着において、付着強度がエポキシ樹脂の水酸基濃度の2/3乗に比例して増し、見事な直線関係になること(これについてはまた後述します)や、不飽和ポリエステル樹脂の極性基濃度と付着強度との関係を検討した結果、付着強度はポリエステルに含まれる極性基の容積濃度に比例して増すことが報告されています。

《極性基濃度には好適範囲がある》

 しかしながら、極性基は付着に有効であると同時に、同種の分子間の会合にも強く作用するため、付着に有効に働くか、会合に有効に働くかは、被塗面の性質、及び高分子の構造によって変わります。非極性的な被塗面に対しては極性基はむしろ有害になることさえあります。
 極性基濃度は大きいほど良いというわけではなく、むしろ好適範囲のあることが多いです。その報告例について、いくつかを下記に示します。

〈ⅰ〉スチレンと不飽和カルボン酸共重合体のアルミニウムに対する付着強度は、カルボン酸含有量が0.5%の時に最大となり、それ以上に増すと、かえって減少する。
〈ⅱ〉塩化ビニル・酢酸ビニル・マレイン酸共重合体のアルミニウムに対する付着強度は、共重合体中のマレイン酸の含有量が3~4%の時に最大になることが報告されている。
〈ⅲ〉メチルメタクリレート系共重合体の剥離強度と極性基濃度の関係では、極性基がアクリル酸からなるときには、共重合体中のアクリル酸含有量の増加に比例して、剥離強度が増大するのに対して、アクリルアミド、メタクリル酸、メタクリルアミドのときには、剥離強度が最大となる最適量が存在する。
〈ⅳ〉鋼―接着剤―ゴム系の付着強度と、接着剤中のメタクリル酸含有量との関係では、メタクリル酸の最適量は15~24%であり、この範囲では凝集破壊が起こる。最適範囲の左右では、付着破壊が、ゴム―接着剤界面または接着剤―鋼界面に沿って起こった。付着破壊は、メタクリル酸含有量が不足のときには、接着剤―鋼界面で、メタクリル酸が過剰のときには接着剤―ゴム界面で起こる。

《極性基濃度と内部応力》

 なお、留意すべきことは、実測される付着強度は塗膜の力学的性質を受けており、付着強度が必ずしも界面での真の付着力を示しているわけではないということです。エポキシ樹脂とアルミニウムとの付着において、付着強度がエポキシ樹脂の水酸基濃度の2/3乗に比例して増すことは、先に述べたとおりですが、この場合、水酸基濃度の増加とともに内部応力は減少し、付着強度増加の原因が単純に水酸基濃度にあると断定するのは、必ずしも当を得ないこととなり、本来の意味での付着力の上昇か、あるいは内部応力の現象による見かけの付着強度の上昇かは区別をつけることは非常に難しいのです。

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