《はじめに》
ガラスや金属酸化物などの金属固体表面には、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの極性樹脂がよく付着することが知られています。一般的には、高分子の極性または分子構造の似た者同士はよく溶け合い、付着も良好です。塗装される対象は主として金属、木材などでありますから、塗膜分子中には極性基のあることが望ましく、経験的にもカルボキシル基、水酸基、カルボニル基、アミド結合のような極性基を有する樹脂の付着性が良好です。《付着性と極性基濃度》
金属とエポキシ樹脂との付着においては、エポキシ樹脂-金属間に水素結合を生じるといいます。これまでに、エポキシ樹脂とアルミニウムとの付着において、付着強度がエポキシ樹脂の水酸基濃度の2/3乗に比例して増し、見事な直線関係になること(これについてはまた後述します)や、不飽和ポリエステル樹脂の極性基濃度と付着強度との関係を検討した結果、付着強度はポリエステルに含まれる極性基の容積濃度に比例して増すことが報告されています。《極性基濃度には好適範囲がある》
しかしながら、極性基は付着に有効であると同時に、同種の分子間の会合にも強く作用するため、付着に有効に働くか、会合に有効に働くかは、被塗面の性質、及び高分子の構造によって変わります。非極性的な被塗面に対しては極性基はむしろ有害になることさえあります。
極性基濃度は大きいほど良いというわけではなく、むしろ好適範囲のあることが多いです。その報告例について、いくつかを下記に示します。
〈ⅰ〉スチレンと不飽和カルボン酸共重合体のアルミニウムに対する付着強度は、カルボン酸含有量が0.5%の時に最大となり、それ以上に増すと、かえって減少する。
〈ⅱ〉塩化ビニル・酢酸ビニル・マレイン酸共重合体のアルミニウムに対する付着強度は、共重合体中のマレイン酸の含有量が3~4%の時に最大になることが報告されている。
〈ⅲ〉メチルメタクリレート系共重合体の剥離強度と極性基濃度の関係では、極性基がアクリル酸からなるときには、共重合体中のアクリル酸含有量の増加に比例して、剥離強度が増大するのに対して、アクリルアミド、メタクリル酸、メタクリルアミドのときには、剥離強度が最大となる最適量が存在する。
〈ⅳ〉鋼―接着剤―ゴム系の付着強度と、接着剤中のメタクリル酸含有量との関係では、メタクリル酸の最適量は15~24%であり、この範囲では凝集破壊が起こる。最適範囲の左右では、付着破壊が、ゴム―接着剤界面または接着剤―鋼界面に沿って起こった。付着破壊は、メタクリル酸含有量が不足のときには、接着剤―鋼界面で、メタクリル酸が過剰のときには接着剤―ゴム界面で起こる。《極性基濃度と内部応力》
なお、留意すべきことは、実測される付着強度は塗膜の力学的性質を受けており、付着強度が必ずしも界面での真の付着力を示しているわけではないということです。エポキシ樹脂とアルミニウムとの付着において、付着強度がエポキシ樹脂の水酸基濃度の2/3乗に比例して増すことは、先に述べたとおりですが、この場合、水酸基濃度の増加とともに内部応力は減少し、付着強度増加の原因が単純に水酸基濃度にあると断定するのは、必ずしも当を得ないこととなり、本来の意味での付着力の上昇か、あるいは内部応力の現象による見かけの付着強度の上昇かは区別をつけることは非常に難しいのです。