《ビヒクルの分子量と付着性の関連》
付着強度がビヒクルの分子量に支配されることは、よく知られています。その報告例について、いくつかを下記に示します。
〈ⅰ〉種々の重合度のポリビニルブチラールをジュラルミンに圧着したときの付着強度を時間的に求めた際、圧着時間が長くなると付着強度が増大しましたが、いずれの圧着時間の場合にも、重合度700~800付近に付着強度の最大値が現れた。それよりも大きい重合度の試料では試験片の破壊が付着破壊であるのに対して、それよりも小さい重合度では試験片の破壊は凝集破壊が生起していた。
〈ⅱ〉ポリ酢酸ビニルでアルミニウムを接着するとき、重合度の増大とともに、剥離強度が増大した。
〈ⅲ〉鋼―鋼をポリ酢酸ビニルで接着して引張強度を測定し、接着剤の厚さ0に外挿して有効付着強度(effective adhesion)を求め、分子量との関係を検討した結果、付着強度は極限粘度0.5までは、極限粘度の増加とともに増大したが、それ以上では一定になる。
以上の例から明らかなように、分子量の影響は次の二つのタイプに大別されます。
①ビヒクル高分子の分子量とともに付着強度が増大する。
②ビヒクル高分子の分子量がある値以上になると、付着強度が急速に低下する。《ビヒクル高分子の凝集力と付着力からの考察》
このことに関して、付着強度はビヒクル高分子の凝集力と付着力の関係からすでに考察されています。すなわち、高分子の凝集力が引っ張り強度で表されると仮定すると、凝集力と重合度との間には次の関係が成立します。
σ=σ∞-(K/Mw)
ここで、σ:ある重合度の高分子の引っ張り強度
σ∞:重合度無限大の高分子の引っ張り強度
K:定数
一方、固体表面への液体(塗料)のひろがりは流動度によって決まります。流動度は粘度ηの逆数であり、分子量Mwと粘度との間にはBuecheの3.4乗の法則がよく知られており、流動度は分子量の増大とともに低下します。
logη=3.4logMw+C
したがって、付着力は流動度に比例すると仮定すると、付着力は分子量の3.4乗に比例して低下するはずです。
破壊は最も弱い場所で起こりますから、分子量の小さい間は被塗物に対する付着力の方が凝集力よりも大きいので、破壊は塗膜の破壊となり、付着強度は分子量の増大とともに増加します。しかし、ある分子量以上になると凝集力は増大しますが、付着強度は低下します。これが②のタイプです。ここで、付着力の方が凝集力よりも常に大きければ、破壊は常に塗膜層の破壊となるため、付着強度は分子量の増大とともに増して、ついに平衡に達します。これが①のタイプです。
《重合度と付着性向上のアプローチ》
低重合度成分の熱運動によるぬれ効果と、高重合度成分による凝集力の効果とを組み合わせられるならば、重合度の均一なものよりも付着性を向上させることができると想定されます。
この点について、重合度の異なる2種類のポリビニルブチラールを種々の割合に混合してジュラルミンに圧着したときの付着強度を求める検討がなされています。その結果、付着強度の向上は、低重合度成分に少量の高重合度成分を混合する場合に特に顕著であり、高重合度成分の添加が被膜の凝集力を向上させ、付着強度の増大に寄与することが示されました。