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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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内部応力と付着性



子どもの時、水彩画を描いてそのままにしておくと、乾いていくにしたがって、絵の面を内側にして画用紙が丸まってしまったという経験があると思います。画用紙にある力が働かなければ、このように変形してしまうことはあり得ません。
 すなわち、この力は絵の具から水分が蒸発していくときに収縮力が発生しているのです。我々が日常アルミニウムホイルや紙などの比較的薄い被塗面に塗料液を塗ったとき、乾燥するにつれて塗膜側に湾曲した塗板となります。例え収縮力が発生しても被塗物がそれにより変形してしまえば、その収縮力は塗膜に残留することはありません。しかし、被塗物が変形せずに、なおかつ塗膜の付着力が十分であれば、その塗膜の応力分布も均一ではなく、膜厚方向で見ると付着界面に、また付着界面では切断端部(自由端)に応力が集中します。
 溶剤蒸発のみで塗膜となるニトロセルロースラッカーの内部応力を例にすると、初期における溶剤の蒸発量(塗膜の体積減少)は大きく、経時に伴い一定値へと収束していきます。その乾燥過程において塗膜のガラス転移点とその弾性率も溶剤の蒸発量と同様に上昇します。同様に無溶剤のアミン硬化エポキシ樹脂も橋かけ反応が進むにつれて、数パーセントの体積収縮を生じます。
 塗膜が被塗面に付着していない場合には自由に収縮して内部応力を生じることはありませんが、よく付着している場合、膜厚方向以外には自由に収縮できず、常に2軸延伸状態となっています。塗膜のガラス転移点が室温に達すると、乾燥していると見なせるという前提の下、乾燥前ガラス転移点が室温よりも低い状態の塗膜中は、自由体積が大きく、ポリマーの熱運動も行えますので、体積が収縮しても応力は発生しません。乾燥後、ガラス転移点が室温を超えたときにポリマー鎖の熱運動は凍結され、「ガラス状態」となります。そして(収縮ひずみ)✕(ヤング率)で表される応力が塗膜中に残留します。同様に、無溶剤の塗膜形成でも内部応力は生じます。
 塗膜の内部応力は常に付着力に逆らって作用し、これが付着力を超えれば、塗膜は剥離してしまいます。また、付着力>内部応力>塗膜の凝集力の場合は塗膜が割れてしまいます。

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環境(特に水分の影響)と付着性



塗膜の曝露、特に高温高湿下に放置すると著しく付着性が低下します。例えば、付着性の良好なエポキシ樹脂や熱硬化性アクリル樹脂塗料でも水分による付着性の低下は顕著に認められます(その一方で、漆器類を水中に入れておいても漆は耐湿性に優れることから、付着性の低下は起こりません)。これは水分子が塗膜中に拡散、これを膨潤しさらに浸透して塗膜-素地界面に凝集し、付着活性点を失活させるためであると考えられています。一般に塗膜の付着性の経時変化は、”付着とは水との戦いであり、付着力の保持は内部応力との争いである。”と言われています。
 塗料界において、我々がユーザーより要望される塗膜物性の規格には、耐水、耐湿および塩水噴霧試験など水に関係する試験後の2次付着性の維持が必ず指定されます。
 塗料技術者は、各塗装工程に使用する塗膜のガラス転移温度、橋かけ密度の調節、カップリング剤などの添加による耐湿性の向上、内部応力の緩和、透湿性に対する下塗りのフィラー充填効果など、いろいろな技術手法を組み合わせ対応しています。

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塗料成分と付着性



ポリマーの種類や構造(極性基の種類と濃度、分子量)は当然のことながら塗膜の付着性を左右します。不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂について、水酸基やカルボキシル基濃度に比例して付着性が増大するという報告があります。
 しかし適正な極性基を多く持ちながら付着性の良くないポリマーも多く、単純に極性基濃度だけでは付着性を論ずることは出来ません。付着の強さ~ポリマーの分子量、橋かけ密度、顔料および可塑剤濃度を調べた曲線は一般に極大点を持つ曲線で示されることが多いです。付着強さの評価には、付着性および塗膜の凝集力のほかに付着障害として作用する内部応力が総合して評価されるためであります。
 主な付着障害には付着活性点の減少、WBLの存在、塗膜の内部応力(乾燥過程において発生する塗膜の収縮または熱応力や劣化に伴い生じる応力)などが挙げられます。

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