リン酸亜鉛カルシウム処理はリン酸亜鉛系処理と同様、鋼の塗装性能向上や、冷間塑性加工用潤滑皮膜の下地処理として用いられています。加工液成分もリン酸亜鉛系処理にカルシウムイオンを添加することによって得られます。
リン酸亜鉛カルシウム処理は、ショルツァイトと呼ばれる結晶系であり、フォスフォフィライトやホパイトと比較して熱特性の点で特徴があります。
合成された結晶の熱分析結果から、結晶水の脱離速度はホパイトの場合は115℃で4水塩から2水塩、275℃で2水塩から無水塩であり、フォスフォフィライトの場合は、123℃で4水塩から2水塩、305℃で2水塩から無水塩になることがわかっています。これに対してショルツァイトは165℃で2水塩から1水塩、413℃で1水塩から無水塩であり、結晶水の揮散温度ふぁ高温にずれています。熱による結晶の破壊は、結晶水の揮散離脱によって生じますので、リン酸亜鉛カルシウム皮膜は高温まで結晶破壊が起こりにくく、結晶水の絶対量も少ないので、完全に脱離しても結晶破壊への影響は少ないです。
このように、リン酸亜鉛カルシウム皮膜は耐熱性に優れる皮膜であり、粉体塗装のような高温焼き付け型塗装の下地処理としても有用です(ただし、通常の塗装系であればリン酸亜鉛系処理の方が優れています)。また、リン酸亜鉛カルシウム処理はリン酸亜鉛系処理の場合と同様、冷間鍛造用潤滑皮膜の下地処理にも適用され、強加工時にかかる熱に対して優れた特性を発揮します。ただし、リン酸亜鉛カルシウムは石鹸との反応性(金属石鹸の生成)が乏しいために、処理液中のカルシウムイオン濃度をコントロールすることで、特定割合のリン酸亜鉛皮膜を共析させる必要があります。