ステンレス鋼などの金属材料を、冷間塑性加工によって、特に強加工を施す場合には、潤滑下地処理としてシュウ酸塩処理を施し、生成した皮膜に油、石鹸、金属石鹸、黒鉛、二硫化モリブデンなどの潤滑剤を併用します。シュウ酸塩処理は、皮膜特性や作業性を単純に比較すると、一般的にはリン酸塩処理に劣ってしまいます。しかしながら、ステンレス鋼は3~6nmの暑さのクロムやニッケル酸化膜、いわゆる不動態膜で覆われている鋼であり、リン酸塩処理液に対しては、溶解せず、皮膜化成が起こらないのです。このため、各種ステンレス鋼の潤滑下地処理には、シュウ酸塩処理が行われているのです。
ステンレス鋼表面の不動態膜は、シュウ酸溶液だけでは溶解し難いため、シュウ酸塩処理加工液の中には、主成分であるシュウ酸以外にも、促進剤(酸化剤)や活性化剤が使用されています。つまりシュウ酸塩処理の反応機構としては、活性化剤と促進剤の共同作用による不動態皮膜の破壊反応に始まり、素地から溶出した鉄成分と、ニッケル成分がシュウ酸塩として析出する反応になります。なお、ステンレス鋼にはクロムを含有しており、クロム成分も溶出しますが、シュウ酸クロムは可溶性であるため、皮膜成分にはなりません。