塗膜は被塗物を保護しその使用年限を伸ばすことによって社会に貢献してきました。しかし、一方で塗膜の付着が被塗物のリサイクルの障害にもなっています。現在使用している脱塗膜方法は、酸またはアルカリや有機溶剤を使っての剥離、サンドブラストなど強い物理的な衝撃による粉砕、火による焼却などになります。これらの方法は、多大のエネルギーを消費すると同時に被塗物を破壊する場合も多いです。これからの社会ではリサイクルを前提とした商品が増えるものと考えられ、塗料もそれに適合したものが開発されないといけません。
この種のコンセンサスは次のように考えられます。
(1)リサイクルする被塗物にはプラスチックが多いので、常温から100℃で乾燥できる
塗料にする。
(2)人手をかけずに多量に処理するために、塗膜は剥がすのではなく、溶解して流し去れる
塗料である。
(3)ストリップペイントのような使用前の一時的保護ではなく、通常の使用を目的とする
ためには、塗膜の分解・溶解は自然界にない条件でのみ起こる塗料である。
カルボニル基を持った樹脂をヒドラジド基を持った架橋剤で硬化する塗料系がこれら条件を満たします。この硬化反応は常温で速やかに起こり(1)の条件を満足します。この逆反応は、逆反応の生成物である水、反応触媒である酸、分解で再生したカルボニル基とヒドラジド基の再結合を希釈によって妨げる樹脂の良溶媒がそろったときに速やかに起こり(2)を満足します。また、この逆反応はこれら三要素が揃ったときのみ起こり、自然界ではこれら三要素全て揃うことはないので(3)も満足します。
分解速度は、分解樹脂の組成、水の量、酸の強さ、溶剤の塗膜溶解性、処理温度によって決まります。塗膜の溶解は非常に速く、脱塗膜条件を適切に選択すれば、被塗物が熱可塑性プラスチックであっても、それが塗膜溶解液によって溶解・膨潤する前に塗膜のみを溶解除去することが可能になります。
塗膜を溶解する溶液に含まれる水・酸・溶剤の三成分のうち、水の量を増やすと樹脂は溶解せず親水性の架橋剤のみが溶け出します。この塗板を引き上げ溶剤洗浄すると、架橋の切れた塗膜は簡単に溶解して洗い流されます。この方法は多少処理時間は長くなりますが、主要な塗料成分を分離回収できますので、溶解液の可使限界が大幅に伸びるとともに樹脂の再利用も可能になります。
カルボニル基とヒドラジド基で架橋した塗膜はいろいろな方法で作ることができます。この架橋系を利用した
水性2液型塗料は、スチレン・ABS・アクリル・ポリプロピレンなど代表的なプラスチック板に、洗浄または前処理を施すことにより、常温乾燥でもよく付着します。