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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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ポリオールエステルの特性:粘度特性



【粘度特性】

●活性化体積(ΔV*

 粘性流動に関するEyringの理論における活性化体積(ΔV*:分子の粘性流動に必要な空孔の大きさに対応)と潤滑性の相関が認められています。ΔV*をその分子のモル体積(V)で割ったΔV*/Vを潤滑性の目安とすると、その値は、n-パラフィン系で0.15~0.09、ジエステル系で0.06~0.04、ポリオールエステル系で0.05~0.03となります。すなわち、ポリオールエステルのように分岐構造のエステルであってもエステル基の-C-O-C結合が比較的フレキシブルであるため、分子の節片ごとの移動に対して障害にならず、ΔV*/Vは小さく、良好な潤滑性を示します。

●圧力-粘度係数

 油の粘度は圧力の上昇に伴って増加しますが、ポリオールエステルの粘度変化は小さいです。このような油の粘度の圧力依存性は一般に次式で表されます。
 η=η0exp(β・P)
 粘度の圧力計数(β)は、パラフィン系鉱油1.7~1.8、ナフテン系鉱油2.2~2.3に対して、ポリオールエステルは1.45~1.55(✕10^-3cm^2/kg,37.8℃)であり、かなり低くなっています。
 このように鉱油は圧力上昇による粘度増加が急激であり、動力損失を伴いますが、ポリオールエステルは粘度上昇が極めて小さく、広い圧力範囲で流体潤滑を行い得ると考えられ、潤滑エネルギーを低減できる省エネルギー型潤滑油であるとみなすことができます。

●配合特性

 化学的性質の異なる成分を混合すると良好な粘度-温度特性を示すことがしられています。エステル油と鉱油との1:1配合油の粘度特性を粘度指数向上効果(ΔVI)で評価すると、粘度指数の低い鉱油はポリオールエステル(分枝構造)、ジエステル(直鎖構造)とのいずれの配合においても高いΔVIを示しています。単一化合物との配合を検討すると、コンパクトな構造を持つ分子(テトラリン、メチルナフタレン)や直鎖構造のオクタデカンは分枝構造のポリオールエステルの粘度指数を向上させますが、(30%配合によりVI118からのΔVIは11~29となる)直鎖状のジエステルに対してはΔVIの効果を与えません。
 さらにまた、鉱油との配合においては、潤滑性の向上も見出されています。

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ポリオールエステルの特性:熱安定性、熱酸化安定性



【熱安定性】

 ヒンダードポリオールエステルは擬環状中間体を経由する低活性化エネルギー型の低温分解を受けにくいため、従来のエステルの欠点であった熱安定性が大きく向上しており、熱分解温度が高くなっています。
 熱天秤分析曲線から求められる最高重量損失速度を示す温度はペンタエリストール・ヘプタン酸エステルで380℃に達します。
 一方、実用的熱安定性を推測するテストにパネルコーキング試験がありますが、各種合成潤滑油についてテストした結果はポリオールエステルが優れた実用的熱安定性を示しています。
 エステルは高温に長時間さらすと熱分解し、一般にカルボン酸とオレフィンを与えます。

【熱酸化安定性】

 潤滑油使用時の酸化安定性と良好な相関を示す高圧空気中の酸化による"発熱開始温度"(ミクロ型高圧示差熱分析)は、ポリオールエステルが190℃以上を示し(パラフィン系鉱油は173℃)、微量の金属塩が混入してもこの温度は鉱油におけるほど大きくは低下しませんでした。
 各種の合成潤滑油の酸化安定試験結果は、ポリオールエステルが優れた安定性を示しています。
 油は酸化を受けると、粘度が大きく上昇しますが、ポリオールエステルの粘度上昇の原因は、エステル中のアシル基が酸化されてオキソ基、ヒドロキシル基(主として第二級アルコール)が発生し、後者の脱水生成物である二重結合によりエステルが熱重合するために高粘度物質を与えることによるものと推定されています。

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潤滑剤としてのイオン液体の特性




 イオン液体は陽イオン(カチオン)と陰イオン(アニオン)のみから構成される溶融塩であり、多くの場合、その融点が100℃以下のものを指します。従来の塩は構成要素であるカチオンとアニオンの間に強力なクーロン力が働くため、容易には液体にはならず、たとえば食卓でお馴染みの塩化ナトリウムを「融かす」ためには800℃以上に加熱しなければなりません。イオン液体は構成イオンのかさ高さや非対称性、共鳴構造などを利用することで構成イオンの表面電荷密度を小さくし、静電引力を弱めることで低い融点を示します。構成イオンの設計によっては明確な融点を示さず、ガラス転移温度が-90℃を下回るイオン液体も存在します。これは、仮に南極に持っていったとしても、凍らないことを意味します。また、水や有機溶媒などの分子性液体に比べると構成イオンの相互作用が強いため、極めて蒸発しにくく難燃性という性質も持っています。
 以上のように、イオン液体は広範な条件で乾燥せず、燃えることもなく、また凍らないといった特性を示す材料であり、様々な分野への応用が期待されています。ここではその1つとして潤滑剤への応用例について紹介したいと思います。一般に自動車においてガソリンが生み出すエネルギーの7~10%は摩擦・摩耗によって失われていると言われています。したがって、低摩擦な潤滑剤の開発は高効率・長寿命な製品開発に寄与することが期待されています。一般に潤滑剤の摩擦係数は基材表面との親和性や運用条件(速度・荷重など)によっても異なることから、系全体について勘案して上での潤滑剤の設計が重要となります。
 イオン液体は熱安定性や難揮発性を有することから、真空中や高温下といった過酷な運用条件に耐える潤滑剤として期待が寄せられています。これらはイオン液体の基油としての特性といえます。一方、摩擦によって基材表面と化学反応を起こすことにより、金属ハロゲン化物などからなる潤滑膜(トライボフィルム)を形成することも特性の1つとして挙げられます。例えば高真空中において機能するグリースとしての潤滑特性の比較においては、一般に使用される多重アルキルシクロペンタン(MAC)油やパーフルオロポリエーテル(PFPE)油と比較して、イオン液体の方が優れた境界潤滑性を示すといった報告もあります。
 通常の潤滑剤に比べると、高純度に精製するのが難しく、コスト的には課題が残るものの、潤滑機構の理解や実機での試験が進み、その有用性が認知されるようになれば精製プロセスの簡略化によるコスト低減も大作として考えられます。今後のイオン液体研究の発展に期待したいところです。

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