国立環境研究所が排出インベントリー調査とシミュレーションにより算出した大気へのVOC排出源類型の内訳によると、塗装によるものが全体の37%と最も多く、工業ライン塗装によるものだけでも全体の11%となっています。(図1参照)
第10回化学物質と環境円卓会議における環境省の資料によれば、2000年に固定発生源から排出したVOCの総量の推計値は150万トンで、そのうち56%が塗装によるものとされています。また、代表的なVOCの種類と量をみると、トルエンと混合キシレンが最も多く約45万トン程度で全体の1/3程度程度を占めます。日本塗料工業会がまとめた2001年度のVOC大気排出の割合でもトルエン混合キシレンが多く、全体量45万に対し約50%を占めるとの報告があります。各塗料メーカーでは、特に大気中でVOCに変換しやすいと思われるこれらの溶剤を削減活動に取り入れる取り組みをすでにはじめています。建築塗料分野をはじめとする屋外塗装では、水性化を主体に進めていますが、水性化が難しい用途に対しては、非芳香族系のミネラルスピリット(ホワイトスピリット)などの通称弱溶剤と呼ばれる溶剤型塗料への置き換えを推奨してきています。溶剤の種類による大気環境への影響の違いに関するデータを図2に示します。MIR値が高いほどVOCが光化学オキシダントを生成しやすく、FAC値が高いほどVOCが2次粒子を生成しやすいと考えられています。キシレンやトルエンなどの芳香族炭化水素はいずれの指標も高い値となっています。一方、自動車をはじめとする工業用塗料においては、高意匠性を兼ね備えた水性中上塗り塗料の展開をはじめています。なお、混合キシレンとしているものは、3種のジメチルベンゼン異性体とエチルベンゼンの合計を表しています。
図1.VOC排出シミュレーション
図2.溶剤種による大気環境への影響指標