金属亜鉛末を80~90mass%配合した塗料のことをいいます。防錆機構は、亜鉛末による犠牲陽極作用、および、亜鉛と外来腐食因子や炭酸ガスなどとの反応によって生ずる塩基性析出塩(塩基性塩化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛など)の封孔作用や、皮膜形成による遮断作用が考えられます。従って、塗膜の損傷で鋼面が露出してもさびが広がりにくいのです。亜鉛末は溶融亜鉛を噴霧冷却して製造され、通常1~10ミクロン程度の球状粒子になります。
使われ方は樹脂などにより、下表のように分類されます。
表.ジンクリッチペイントの分類用途別 | ジンクリッチプライマー(一時防錆プライマー) 厚膜形ジンクリッチペイント |
樹脂別 | 有機質ジンクリッチペイント・・・エポキシ樹脂系など 無機質ジンクリッチペイント・・・エチルシリケート系、 アルカリ(Na、K)シリケート系など |
硬化 形式別 | ポストキュアー形・・・アルカリシリケート系でのリン酸溶液硬化処理など セルフキュアー形・・・自然放置乾燥のもの。湿気硬化反応などによる |
亜鉛 濃度別 | ジンクリッチプライマー・・・塗膜に亜鉛を80~90mass%含み、防食性に特色 低濃度ジンクプライマー・・・上記より亜鉛含有量が低いもの。溶断溶接性に特色 |
一時防錆プライマーは、ショッププライマーとも呼ばれ、ブラスト処理した鋼厚板や形鋼に10~20μmの膜厚に塗装されます。構造体やブロックを建造するまでの一時防錆プライマーについてはジンクリッチプライマーの名称でジンクリッチペイントとは区別されます。樹脂は有機質、無機質ともに使用され、一般に没水部は有機系が、大気部は無機系が優れていると言われますが、どちらにも共用しているケースが多いです。
低濃度無機質ジンクプライマーも普及し、新無機ショッププライマーとも呼ばれています。これは塗料中に亜鉛以外の顔料を併用して一時防錆の目的を満たしながら、溶断溶接性を向上させ、建造作業環境中に発生する亜鉛ヒューム量が削減できるもので、造船業界で普及しています。
厚膜形ジンクリッチペイントは、亜鉛末、無機質のアルキルシリケート系または有機質のエポキシ樹脂やアルキッド樹脂、および、ポリアミド、アミンアダクトなどの硬化剤、顔料、有機溶剤を主な原料とし、鉄鋼構造物を建造後にサンドブラストやグリットブラスト処理してから膜厚75μm前後に塗装するもので、長期防錆を目的とする下塗塗料になります。歴史的には亜鉛めっきに相当する厚みと防錆性を有する塗料として生まれました。厚膜形ジンクリッチペイントは、重防食塗装系のベースとなる塗料であります。その上に遮断性に優れたエポキシ塗料下塗を塗って亜鉛の溶解消耗を抑制し、さらに耐候性の優れたポリウレタン樹脂やフッ素樹脂などの上塗り塗料と組み合わせた重防食塗装系は、国内では海上長大橋などでその耐久性が高く評価され、作業性もよいです。
厚膜形無機質ジンクリッチペイントは、有機質ジンクリッチペイントと異なり塗膜内に多くの空気孔が存在するため、そのまま上塗りすると、塗膜を通じて表面まで逃げた空気がピンホールとなり、また、途中までの空気は泡となってしまいます。そのため、次の工程に先立って、その工程に使用する塗料を霧状(mist)に薄く塗装する
ミストコート(mist coat)を特に間に入れる必要があります。ミストコートは、無機質ジンクリッチ塗膜の上に塗る塗料の場合はエポキシ樹脂塗料を希釈剤で30~60mass%に希釈したもので、粘度が低いため空気孔内に浸入し、内部空気と置換して内蔵空気を排除する機能を持ちます。
エチルシリケート系厚膜形ジンクリッチペイントは単一塗膜だけで、船舶の石油製品タンクやバラストタンク内面に使用されています。アルカリシリケート系厚膜形ジンクリッチペイントは水系塗料で強靱な塗膜を形成しますが、フラッシュラストを生じやすく作業性に難点が大きいため、国内では普及していません。現在では、無機質ジンクリッチペイントといえばエチルシリケート系が一般的です。
関連用語:ミストコート