塗装の全プロセスを通じて、塗料の流動性コントロールは一貫して重要な課題です。
ミクロには、塗料の構成要素が分子オーダーで相対位置を変えることが流動になります。分子または分子中の運動単位(セグメント)が相対位置を変えるためには、移動できる隙間が必要です。みかけの体積と分子の実体積の差を自由体積と呼び、この自由体積の大きさが流動しやすさと密接に関係しています。分子末端は分子のつながりが切れる場所であり、自由体積を大きくします。低分子物質になるほど、分子末端の分率が高くなるため、自由体積が大きくなります。分子量の低い溶剤で希釈すると粘度が低いのはこのためです。逆にモノマー→オリゴマー→ポリマーと分子が大きくなり高分子化すると自由体積が減少し、粘度は増大します。
Dolittle式あるいはWLF式を利用すると、溶液粘度に対する溶剤粘度、濃度及び温度などの効果を自由体積あるいはTgという概念を介して統一的に扱うことができます。
WLF式を用いると、ある温度Tにおける粘度の値からその液体のTgが計算可能であり、逆にそのTgをパラメータとして他の任意の温度における粘度が計算することができます。
Tgの高分子構造依存性、分子量依存性、共重合組成依存性あるいは溶液濃度依存性などに関して多くの知見が蓄積されており、それらを塗装プロセスにおける塗料の粘度挙動の予測に利用しない手はありません。