下塗りが橋かけ形塗料では、硬化が進めば橋かけにあずかる官能基が減少するので、上塗りとの付着に有効な付着活性点が減少するため、層間剥離が起きやすくなります。建築塗装業界などでは、経験的に”かたい下塗塗膜ほど上塗りの付着が悪い”といわれています。
アミノアルキド樹脂白エナメルおよび酸硬化尿素樹脂ワニスについて、重ね塗りの場合の層間付着強さに及ぼす下塗塗膜の硬化の影響が調べられています。方法として、市販のアミノアルキド樹脂白エナメルを焼付温度を変え(各30分焼付)、さらに同じエナメルを上塗りし、同一条件(120℃/30分間)で焼付けて試験片を作成する実験が行われています。
その結果、付着強さ(層間)測定器の種類が異なると、例えば碁盤目試験とアドヘロメーターのように全く逆のものとなり、興味深いものとなりました。アドヘロメーターの測定機構は塗膜の切削機構が主であるため、硬化の進行に伴い層間付着強さが増大する一方(下塗塗膜表面の切削凝集破壊)、一般には層間付着強さは低下します。
酸硬化尿素樹脂ワニスの場合、合板にワニスを塗布し、室温で時間別に乾燥した後、同一ワニスを上塗りし、実験が行われました。結果は、塗り間隔3~5日で層間付着強さは急激に低下しました。当然のことながら、この塗り間隔時間はワニスの種類・硬化剤の種類や濃度・乾燥温度などワニスの硬化速度の変化に伴って変化します。同時に、ワニス中の活性基の消滅を追跡する目的で、硬化過程における赤外吸収スペクトルが測定されました。この種の塗膜の橋かけ反応機構はかなり複雑ですが、硬化に伴うNH基濃度の増加(相対的に水酸基やCH2OH基など付着活性点の消滅)を、IRの吸光度比(logI0/I)に着目して同じグラフにプロットすることで解析されています。その結果、ワニス塗装後2~3日で活性基が急激に減少し、それに対応して付着強さも急激に低下することもわかります。
以上のように、層間剥離の原因の一つは上述のような硬化に伴う付着活性点の減少とそれによる上塗塗料の溶剤による膨潤性の低下であります。その対策の一つとして、未硬化状態で上塗りするか、アンカー効果を念頭に下塗塗膜を簡単に研磨などする必要があります。