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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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層間剥離:層間に付着障害物質が存在する場合




 下塗/上塗境界層に水溶性物質または脆弱な物質の層があれば当然層間剥離の原因になります。このような付着障害物質は下塗塗膜後表面に付着するものや塗装過程で塗料成分と反応して生成するものなど、塗料の種類や硬化条件により多種多様であります。
 前者の例としては、上塗塗装前に高濃度の潮風が下塗塗膜表面に塩分を析出させる場合があります。塩分を挟み込んだ形のこの塗装系が多湿条件に置かれると、上塗塗膜を通過した水分によりこれら塩分が潮解して層間剥離を起こします。
 トタン板やジンクリッチペイントなど亜鉛に対する油性塗膜の塗着不良は古くからよく知られています。ラテックス・塩化ゴム系あるいは反応形塗料など油を原料としない塗料ではこのような現象は起こりません。
 上塗り性、特にジンクリッチ塗膜に対する油性塗料の上塗りが層間剥離しやすいことに着目した研究者は、この原因をぬれが悪いかあるいはかさ高いか(弱境界層になる)、いずれにしても層間付着の障害になる亜鉛腐食化合物(たとえば塩基性炭酸亜鉛・塩化亜鉛・硫酸亜鉛)が表面に形成されるためであると言っています。

 ジンクリッチペイント・亜鉛めっき鋼板など亜鉛上に直接長油性アルキド樹脂または油性塗料を塗ると、短期間の曝露で剥離を起こすことがあります。この原因を解明する目的で、亜鉛めっき鋼板およびチタンめっき鋼板に各種塗料を塗布し、屋外暴露後、全反射赤外吸収スペクトル分析による亜鉛-塗膜界面の生成物の分析・トルク法による塗膜の付着強さの測定および単離塗膜の粘弾性測定を行い、素地が亜鉛の時に起こる特長について調査が行われています。また、アルキド樹脂塗料中に添加すると付着性を向上するといわれている鉛酸カルシウムの効果についても、同様の方法で検討されています。
 その結果をまとめると、以下のようになります。
 (1)亜鉛上に塗装した長油性アルキド樹脂および油性塗料では亜鉛セッケンの生成が
   認められ、このような塗膜の付着強さは曝露により著しく低下する。〔境界層に生成した
   亜鉛セッケンが弱境界層になる〕
 (2)亜鉛セッケン生成により塗膜の劣化が促進され、脆化が認められる。特に亜鉛-塗膜間の
   劣化が著しいと考えられ、付着低下の主因と推定される。
 (3)塗料中に鉛酸カルシウムを添加することにより、亜鉛セッケンの生成反応が抑制される。
   また、この塗膜の付着強さは曝露後も低下せず、鉛酸カルシウムの添加効果が認められた。

 また、アミンアダクト硬化タール/エポキシ塗料を用い、塗り間隔を変え3回塗装し、4種類の塗装系を調整して、サンドイッチpull-off試験により付着強さを測定する実験も行われています。結果をまとめると次の通りになります。
 (1)脱着の大部分は第2/第3塗膜間の層間剥離であった。
 (2)塗り間隔7日間の塗装系が最も付着がよく、第3回目の塗装間隔を1ヶ月にした系が最低で
   あった。後者の場合、第2回目の塗膜表面をMIBKでこすった系は付着強さが向上したが、
   塗り間隔7日間の系より付着強さはかなり低かった。
 この種の塗装系も硬化過程で何らかの付着障害物質が塗膜表面にできているものと考えられます。

 鉛丹さび止め塗料も貯蔵期間の延長に伴い層間剥離を起こすことがよく知られています。鉛丹さび止め塗料JIS-1種について、主に分析的手法で層間剥離の原因を追究した結果、塗料中の油分が貯蔵期間中鉛丹と反応して鉛セッケン・ジエステル・モノエステルなどのけん化物が生成することがわかっています。さらに、種々の表面分析の結果、これら鉛セッケンは塗膜内部より表面近くに偏在して、弱境界層を形成します。そのため、表層部の凝集破壊による層間剥離を起こすと考えられています。また、塗料にシリコーンを添加すると、シリコーンが表面に浮き、鉛セッケンの表面浮きを抑制するため、層間剥離の防止の対策になることが明らかになっています。

JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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