▽自動車塗料・塗装面からの対応(工程短縮塗装の展開)
自動車生産工程において排出されるVOC/二酸化炭素による大気汚染および地球温暖化への影響抑制に向けた塗料・塗装技術からの取り組みを説明します。
光化学スモッグなどの大気汚染要因となるVOCは、主にボディ塗装用塗料(中上塗り)に含まれており、大部分は塗装工程の塗装ブース・乾燥炉から排出されています。2006年の改正大気汚染防止法の施行に先駆けて2000年頃から塗料面では、低VOC塗料の採用(溶剤系塗料のハイドリッド化や水性系塗料化)、塗料使用用削減(洗浄シンナー使用量低減)など、そして塗装技術面では、塗着効率の向上(ロボット塗装化)などの取り組みが実践されており、これらの対策効果により2010年度2000年度対比でVOC40%削減目標(自工会目標)は達成され、現在、さらなる削減化のため、既述の対応は引き続き継続されています。
地球温暖化対策については、生産工場での電力・燃料などのエネルギー使用に伴う二酸化炭素の削減に向け、1990年度対比で2008から2012年平均25%削減目標(自工会目標)を立て省エネルギー対策が実施されました。その結果、2011年度時点において35%削減されており、2008から2012年平均25%削減目標は達成されました。2013年以降も削減に向けた自主規制が継続され、新たに2020年度、1990年対比で28%削減目標が策定されており、今後、塗料・塗装面からの対策として、現在展開中の工程短縮システムの導入展開がより加速すると考えられます。工程短縮塗装系(3WET塗装系)は、従来の塗装系(3C(コート)2B(ベーク)塗装系)と異なり、PH(プレヒート)工程や焼付け乾燥炉工程を省くことによりVOCと二酸化炭素削減の両立化が可能で、経済性においても省工程による生産性コストの低減も可能な塗装技術であることから今後も採用が増えてゆくと考えられます。本塗装系は、品質面において、3WET塗装工程(3C1B系)による特徴から、従来の3C2B塗装系に比較して、
①中塗り/ベース間での混層による仕上がり外観および意匠性の低下
②焼付け工程削減(2回→1回)による下地隠蔽不足による仕上がり外観の低下
(電着肌形状がクリヤーまで転写され仕上がり外観が低下)
③各層間での混層による膜物性機能低下によるチッピング性など塗膜性能低下
などの課題が開発段階で抽出され、、それぞれの課題について各層での界面制御に向けた粘性制御・硬化性制御対応などにより、設計改良が実施され、現在に至っています。
さらに、水性3WET(2PH)塗装系は、さらなる二酸化炭素削減、生産性コスト削減、塗装品質安定化に向け、中塗り塗装工程およびPH工程が削減された水性3WET(1PH)中塗りレス塗装系に移行してゆくと予想されます。
▽自動車塗装設備面からの対応
塗料使用用削減=VOC低減目的により、レシプロ塗装機からロボット塗装機に移行しています。ロボット塗装機では、塗装部位のみを効率的に塗装できることから、レシプロ塗装機より塗着効率が高く、結果塗着塗料ロスを低減できることにより、VOC排出量削減に貢献できます。
また、ここ数年、現状のロボット塗装機1台当たりの塗装能力には限界があるため、塗装能力向上を目的として塗装機の処理できる塗料量を大幅に増やした大吐出量型塗装機が採用されています。この塗装機によりロボット塗装機台数の削減できるので、ブース長の削減が可能となり、これにより温湿度調整に使用されるエネルギー低減に繋がり、結果として二酸化炭素排出量の削減が期待できます。
既述の工程短縮塗装システムにおいて、水性3WET(1PH)中塗りレス塗装系では、ベース塗装工程でのベース塗装回数は2ステージから1ステージ塗装となり、吐出量増量塗装が求められるため、今後は本塗装機の採用が拡大されてゆくと考えられます。