農作物や樹木などの植物に悪影響を与える大気汚染物質には、硫黄酸化物(SOx)(二酸化硫黄(SO
2)や硫酸ミストなど)、ふっ素化合物(ふっ化水素や四ふっ化ケイ素)、光化学オキシダント(オゾン、パーオキシアセチルナイトレート(PAN)及びその同族体)、非メタン系炭化水素(エチレンなど)、塩素、塩化水素、、窒素酸化物(NOx)(一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO
2)など)、ホルムアルデヒド、アンモニア、硫化水素、一酸化炭素(CO)、紫外線、ばいじん、粉じん(一般粉じん、特定粉じん(石綿))などがあります。
植物に対する大気汚染物質の毒性は汚染物質の種類によって異なりますが、その強弱は人間と植物では必ずしも一致しません。植物に対する毒性の強弱に基づき、ガスまたはミスト状の大気汚染物質を類別したものを表1に示しました。
また、代表的な大気汚染物質による植物被害の特徴は下記のとおりになります(表2)。
SO
2は、通常炭酸同化作用を盛んに行っている葉脈内に斑点状のクロロシス(黄白化)やネクロシス(細胞・組織の壊死)を生じやすいです。
ふっ化水素は、葉の先端や周縁が油浸状を呈し、その後は次第に黄白化し、さらに褐色がかってきます。被害が著しくなってきますと細胞や組織が壊死し、ネクロシス症状を呈します。特にふっ化水素の場合は、被害部と健全部の境がやや濃く褐色を帯びるのが特徴とされます。
オゾンは、被害が軽いときは葉の表面に白色の小斑点が散在し、かすり状を呈します。被害がひどくなると葉内の柵状組織が崩壊し、黄白色~褐色の不規則なそばかす状のしみ(fleck)が発生します。
PANの影響は極めて特徴的で、葉の裏面が光沢化し銀灰色または青銅色を呈することが多いです。肉眼的にはオゾンでは葉の表面に、PANでは葉の裏面にそれぞれ特有の症状を呈します。
塩素による影響は、はじめに葉の先端や周縁にクロロシスを生じ、その後葉面の全体に及び、SO
2やオゾンによる被害と類似してきます。高濃度の塩素に対する急性症状としてネクロシスも生じます。
NO
2による症状はSO
2やオゾンと似ていますが、その影響は弱いです。
エチレンは一種の植物ホルモンであるため、果実の成熟や開花の促進、落果・落葉、花弁・萼片のしおれ・退色、気管の老化、葉の上偏成長、休眠打破、根の伸長阻害など広範囲に及びます。
表1.植物に対する毒性の強弱による大気汚染物質の分類
毒性レベル | 大気中濃度範囲 | 汚染物質 |
比較的強 | 数ppb~数十ppb | ふっ化水素、四ふっ化けい素、エチレン、 塩素、オゾン、PAN |
中程度 | 数百ppb~数ppm | SO2、SO3、硫酸ミスト、NO2、NO |
比較的弱 | 数十ppm~数千ppm | ホルムアルデヒド、塩化水素、アンモニア、 硫化水素、CO |
(注)ppb(パーツ・パー・ビリオン):10億分のいくらであるかという割合を表す数値。主に濃度を表すために用いられます。同様の単位のppm(パーツ・パー・ミリオン)は、100万分の1を表します。
表2.主要汚染物質による植物被害の特徴
汚染物質 | 限界濃度 時間 | 被害部 | 症状 |
オゾン | 0.03ppm 4時間 | 柵状組織 | 小斑点、漂白斑点、色素形成、 育成抑制、早期落葉 |
PAN | 0.01ppm 6時間 | 海綿状組織 | 葉裏面の金属色光沢現象 |
NO2 | 2.5ppm 4時間 | 葉肉部 | 葉脈間の白色、褐色、 不定形斑点 |
SO2 | 0.3ppm 8時間 | 葉肉部 | 葉脈間不定形斑点、クロロシス、 育成抑制、早期落葉 |
ふっ化水素 | 0.01ppm 20時間 | 表皮及び葉肉部 | 葉の先端・周縁枯死、 クロロシス、落葉 |
塩素 | 0.1ppm 2時間 | 表皮及び葉肉部 | 葉脈間等漂白斑点、落葉 |
(注)PAN:パーオキシアセチルナイトレート(
Peroxy
acetyl
Nitrate)の略称。分子式C
3H
3NO
5で光化学スモッグに含まれる二次汚染物質になります。オゾンとともに代表的なオキシダントに分類されています。工場や自動車から排出された窒素酸化物と炭化水素の光化学反応で生成します。