《乾性油》
油脂は脂肪酸のトリグリセライドですが、そのうち高度不飽和酸の含有量が多いものは、空気中の酸素を吸収して酸化重合し、乾燥するので乾性油と呼ばれます。亜麻仁油、サフラワー油、支那桐油などが多く使用されています。これらの植物油はそのまま用いられることはほとんどなく、多くは長時間加熱重合してスタンド油としたり、低温加熱で空気を吹き込みながら加熱し、ボイル油として利用されます。このような処理により乾燥性が改善されます。酸化重合反応の促進の目的で、油性塗料にはコバルト、マンガン、鉛などの脂肪酸塩などが乾燥剤(ドライヤー)として加えられます。
鉄鋼構造物の防錆には、油性さび止めペイントが長い間主流として使用されてきました。これは価格の安い割には防錆性能、耐候性が良好で、特別に厳しい腐食環境でなければ十分に防食効果を期待できることによります。また塗装作業性が良く、塗装環境の許容度にも幅があります。塗装前の素地調整の良否が塗膜の防食効果に及ぼす影響は非常に大きいですが、油性塗料の場合には他の塗料と比較してやや悪素地に適性を示します。このような使いやすさを有することも広く使われてきた理由と思われます。また反面、塗膜の乾燥・硬化が遅いこと、特に低温で極端に遅くなること、耐水性が不十分で浸漬される条件下には不適当であることなどの欠点も有しています。《フタル酸樹脂(アルキド樹脂)》
フタル酸樹脂は、石油を原料として得られる無水フタル酸とグリセリンなどを反応させて得られるもので、塗料用のフタル酸樹脂は油とフタル酸樹脂を化学的に結合させたもの(油変性フタル酸樹脂とも呼ばれます。)であって、使用する油の種類とその量により性質の異なったものが得られます。一般に油の量の多いものは長油性フタル酸樹脂、油の量が少ないものは短油性フタル酸樹脂、両者の中間位のものは中油性フタル酸樹脂と呼ばれています。防食塗料の分野では長油性フタル酸樹脂よりもさらに油の量の多いものを超長油性フタル酸樹脂と呼ぶことがあります。
鉄鋼構造物の防錆塗装にはもっぱら長油性フタル酸樹脂が使用され、鉄道車両や機械類などの塗装には中油性フタル酸樹脂が多く使用されています。
短油性フタル酸樹脂は他の合成樹脂と混合して用いられ、単独で用いられることはほとんどありません。長油性・中油性フタル酸樹脂塗膜の乾燥・硬化は、変性に使用されている油の酸化重合によるもので、油性塗料と同様です。
フタル酸樹脂をビヒクルとして使用したフタル酸樹脂塗料は耐水性にやや難点はありますが、耐候性、付着性、乾燥性、保色性、作業性、その他多くの優れた特長を持っているため、戦後油性塗料に代わって飛躍的にその使用量が増加しました。特に長油性フタル酸樹脂塗料の中でも、比較的油性の長いものは合成樹脂調合ペイントと呼ばれ、従来油性調合ペイントが使用されていた分野にもその用途を拡大してきており、橋梁を始め石油タンク、鉄骨など中塗り・上塗りとして多く使用されています。