環境負荷低減など環境に配慮した製品へのニーズが高まっており、プレコート鋼板においても例外ではありません。そのような視点からクロメート(六価クロム化合物)を含まないプレコート鋼板の開発が進められています。現在プレコート鋼板の下地処理と下塗り塗料には、クロメートを含む表面処理薬品や防錆顔料が広く使用されていますが、EUなどを中心に各種の規制がなされています。現時点では国内には製品そのものへのクロメートの使用を規制する法律はありませんが、有害性は認知され環境基準などには反映されており、いずれは何らかの規制が始まるものと予想されます。この動向に対応してプレコート鋼板のクロメートフリー仕様の検討が進められています。近年ではクロメートフリー化の鍵となるクロメートフリー防錆顔料とその塗膜への配合技術の開発が進み、外装用途としてのクロメート防錆顔料と遜色ない防錆性能が得られつつあります。
ここで六価クロム化合物防錆機構を説明すると、クロメート顔料や前処理などから供給されるクロム酸イオンは金属表面で還元され、高分子化した水和酸化クロム層を形成し、下塗塗膜との密着性を向上させます。また、傷付きなどにより金属表面が露出した場合も、同様に不導体化した保護膜を形成します。これはクロム酸イオンによる自己修復機能と呼ばれています。またこれらの皮膜は腐食因子の侵入を抑制する効果も有しています。
一方、クロメートフリー防錆顔料も六価クロムと同様に酸化力を有する物質に着目し開発が進められています。プレコート鋼板用としては、カルシウムシリケート系、五酸化バナジウム系などがクロメートに比較的近い防錆機構を得ていると考えられており、さらに水溶解特性やめっき鋼板の腐食が抑制できるpHなどを考慮した設計が加えられ、クロメートとほぼ同等の防錆性能を有する下塗り塗膜も開発されています。
比較的腐食環境の緩やかな屋根曝露(雨がかかる環境)では、クロメートフリー仕様プレコート鋼板はクロメート仕様とほぼ同等の性能を有しています。さらにエスジーエルそ塗装基材として組み合わせることで、軒下などより厳しい腐食環境を想定した複合サイクル試験でもガルバリウム鋼板を基材としたクロメート仕様を大幅に上回る性能を得ることができています。
このようにクロメートフリー仕様においても、塗装基材を適切に選択することで、様々な腐食環境に対応することが可能となっています。