塗料はゾル、塗膜はゲル状です。ゾル→ゲルへの移行は乾燥によりますが、これが物理的には塗料の流動性が小さくなったことを意味します。すなわち、
(塗料)→(塗装)→(塗料の粘度増加)→(弾性の出現)→(粘弾性の増加)→(塗膜)
の過程で作られます。このときそれぞれが数値的に表わしうるのであればいいのですが、実際は状態変化が激しいため、粘弾性の測定は極めて困難です。
塗料の粘度が10000Pになると、指触では乾燥塗膜と感じられます。この10000Pの粘度は一般にその樹脂の軟化点における粘度に相当するもので、固体-液体の境界領域での粘度になります。したがって乾燥が早いということは、短時間の間に粘度が上がり、10000P以上の粘度になることを意味します。ここで注意したいのは、この粘度の状態では、塗膜中に溶剤分がなくなっているわけではありません。このため完全に乾燥すると、塗膜厚は非常に薄くなります。業界ではこのことを「肉やせ」と呼んでいます。
塗料から溶剤が蒸発するときの挙動は、溶剤単独の時とは同じではなく、塗料からの方が遅くなります、その理由は、
(1)樹脂の溶解による蒸気圧の低下
(2)樹脂と溶剤との相互作用(親和性)
(3)溶剤の内部の抵抗拡散
(4)溶剤の蒸発とともに塗料内部の濃度傾斜
(5)表面膜の形成
が挙げられます。溶剤の蒸発初期は、恒量蒸発で、うず流動を起こして塗料内部の均一化があって、溶剤分子は表面から蒸発します。後期は、粘度が上がるのでうず流動は止まり、溶剤分子は塗膜表面層に拡散しながら蒸発します。うず流動停止後のいわゆる残留溶剤の蒸発も、速度が初期のものよりも遅いだけで、機械的には同じと考えられています。一般に塗料中の溶剤分が、約80%蒸発してしまうまでは、蒸発速度はほぼ同じで、85~90%くらいになると急激に低下し、終わりの5%くらいが全体蒸発終了するには、かなりの時間がかかります。ここで、当然のことではありますが、塗料中の溶剤蒸発は、
(1)膜厚
(2)空気流量
(3)温度と湿度
に深い関係があります。