塗膜の付着力を測定したことのある方であれば、誰しも経験することではありますが、付着破壊が塗膜と塗装素材界面のみで起こることはまれであって、塗膜内での凝集破壊が混在するのが普通です。塗膜と素材の界面に薄い皮膜層を想定し、この皮膜層が脆弱であるとすると、引張り試験によって破壊されるのはこの皮膜であって、塗装塗膜の付着破壊力はこの脆弱皮膜の強度によって決まります。この機構による付着破壊を脆弱境界層(Weak boundary layer、WBL)説と称し、Bickermannが提唱しています。塗料ではこの説に従う場合が多く、塗装前処理としての水研ぎ、除錆には、WBLの除去と考えられる場合が非常に多いです。
ここで、WBLの例を挙げますと、亜鉛めっき鋼板にアニオン電着塗装を施した際の、塗膜とめっきの界面にWBLが形成される事例があります。このWBLはIR分析により、結晶性のカルボン酸塩であることがわかり、事実、電着浴中の遊離脂肪酸量を減少させることにより塗膜の付着力を改善することが出来ました。