1960年代初頭に、自動車車体の下塗りに電着塗装が採用されてから50年近くが経ちました。自動車産業では最初アニオン電着塗装が実用化されましたが、塩害に対する耐食性が重視されるようになり、カチオン電着塗装に移行しました。電着塗装技術が成熟した現在では、種々の産業分野で目的に応じて、これらの方法が使い分けられています。
電着塗装は浸漬塗装法の一種で、塗料槽に被塗物を浸漬し、直流電流を流して塗膜を析出させます。析出する膜厚は電圧に比例しますので、特殊な場合を除いて低電圧で塗装し、塗膜の析出時間は2~3分と短時間です。析出膜の含水率は低く、一般的には10%以下です。膜厚は塗膜物性や色調などに要求される目的によって、5~50ミクロンの範囲で決められます。電着塗料には樹脂に導入されたイオン性基の電荷によって、アニオン型とカチオン型があります。
電着塗装は前処理工程(脱脂と皮膜化成処理)、電着工程、焼き付け工程からなります。脱脂は被塗物に付着している油脂や汚れを除去する工程で、塗膜の仕上がりや美観に直接かかわります。皮膜化成処理工程は被塗物と塗膜の密着性(付着性)を改善するもので、素材の種類によって種々の皮膜化成処理が施されています。電着塗料は熱硬化性樹脂を使用しており、焼き付け工程で加熱によって硬化反応を促進して塗膜物性を調節します。