種々の燃料の燃焼が完了した後に残る炭素粒子をすすといいます。燃焼過程の火炎中に炭素粒子が生成しないときは出ないので、すすの発生は燃焼過程にあるとみられています。炎の中で生成した炭素とすすは、ほとんど同一の性質のものと考えてよいでしょう。気相炭化水素の燃焼による炎の中では炭素は単独に分離していて、火炎末端から凝集して大きなすすとなります。火炎中の炭素はほぼ球状でありますが、炎の先端近くか試料採取後にはこれらが集まってひも状になることがあります。
炭素の大きさは1~100nmくらいで、その構造は燃料の種類や燃焼条件によって異なります。炭素粒子は質量割合で1~6%程度の水素を含みます。すすの生成機構は現在のところ十分に解明されていませんが、炭化水素燃料の燃焼過程で、脱水素や分解と同時に重合や芳香族環の生成などにより次第に炭素分の多い物質ができ、最後に炭素が生成されると考えられています。このような現象を凝縮といいます。すなわち、主に脱水素と凝縮とが炭素生成の原因となりますが、どちらが先に進行するのか、あるいは同時に進行するのかについては議論が分かれています。
炭素またはすすの生成には燃料の性質が大きく影響し、一般的には次のことが挙げられます。
①燃料の炭素と水素の比(C/H)が大きいものほど、すすが発生しやすい。
②-C-C-の炭素結合を切断するよりも、脱水素の容易な燃料の方がすすが発生しやすい。
③脱水素、重合および環状化(芳香族生成)などの反応が起こりやすい炭化水素ほどすすが生成
しやすい。
すす発生の難易は表1のとおりになります。天然ガスやLPGは最も少なく、タールは最もすすを発生しやすいです。ただし、すすの発生は燃焼方法にも関係しますので、これは絶対的なものではありません。ガス燃焼、油燃焼、石炭燃焼におけるすすの発生の特徴は表2のとおりです。
燃料の燃焼によって発生したすすが核となって、燃料中の硫黄から燃焼により生成した硫酸を吸着して燃焼ガスの露点温度付近で雪状に成長したものをスノースマットまたはアシッドスマット、スノーヒュームといいます。スノースマットの化学組成は炭素分20~30%、硫酸分10~40%、灰分10~30%であり、粒子径は比較的大きく肉眼でも認めることができます。ダクトで生成したスノースマットは大きな塊状に成長するものがあり、煙突から排出された場合、質量が大きいため煙突の周辺に落下して被害を与えます。
表1.燃料の種類とすす生成の難易
順位 | 燃料 | 順位 | 燃料 |
1 | 天然ガス | 7 | コークス |
2 | LPG | 8 | 亜炭 |
3 | 油ガス | 9 | 低揮発分瀝青炭 |
4 | 石炭ガス | 10 | 重油 |
5 | 灯油 | 11 | 高揮発分瀝青炭 |
6 | 軽質燃料油 | 12 | タール |
※順位が下がるほど、すすが発生しやすい。
表2.燃料によるすす発生の特徴
燃料 | 特徴 |
ガス燃焼 | ▽気相の炭化水素はすすの生成量が最も少ない。 ▽予混合燃焼では火炎面の温度がかなり高く、ほとんど炭素が生成されない ため、不輝炎になる。 ▽拡散燃焼では拡散炎の酸化速度が空気の拡散によって制限されるため炎の 中に炭素が生成されやすく、すすも発生しやすい。 ▽予混合燃焼でも拡散燃焼でも、過剰空気が10%程度あれば燃焼室内でほと んど完全燃焼できるのですすを発生することはない。 |
油燃焼 | ▽油燃焼はガス燃焼の拡散燃焼に似ていて、空気の拡散速度が大きければ燃 焼後にすすが残ることは少ない。 ▽重油の噴霧燃焼では、油滴が蒸発した後にコークスが残る。これをセノス フェアといい、気相反応によって生成される炭素よりもはるかに大きい。 ▽ボイラーは始動時には燃焼室内の温度が低いのですすが発生しやすい。ま た、燃焼室内で炎が低温の水冷壁に当たって急冷されたり、噴霧油滴が壁面 に付着してすす発生の原因となる。 |
石炭燃焼 | ▽微粉炭燃焼は大型設備に多く、管理が行き届いているのですすはほとんど 発生しない。 ▽ストーカー燃焼の場合、空気比は高いが、可燃物と空気の混合が十分でな いとき、部分的に空気不足のところですすが発生する。 |