燃焼排ガス中の二酸化硫黄(SO
2)は通常0.2%以下でありますが、この中の1~5%が三酸化硫黄(SO
3)になります。重油燃焼ガスでは2~5%、微粉炭燃焼がすでは1~2%程度SO
3が含まれているといわれています。
SO
3は水蒸気と反応して硫酸を生成し、ガス状の硫酸が液体硫酸となる温度(酸露点)を高くします。これは燃料中の硫黄分、過剰空気、水蒸気量、燃焼方法によって異なりますが、最高160℃くらいまで上昇することがあります。燃焼ガスの温度が酸露点に達すると硫酸が凝縮しはじめ、酸露点以下15~40℃で凝縮量は最大となり腐食量も最大となります。
燃焼排ガス出口温度の低い発電用ボイラー、あるいは種々の熱設備の熱交換器内のガスの流れが一定でないと、局部的にガス温度が酸露点以下になって伝熱面を腐食します。これが低温腐食です。
一方、重油中に含まれるバナジウム、ナトリウムなどの金属化合物が腐食性成分として灰分中に残留し、これが過熱器、再熱器などの高温伝熱器に付着、堆積して腐食を生じる現象を高温腐食といいます。重油中のバナジウム、ナトリウム、カリウム、ケイ素、アルミニウム、ニッケルなどは金属化合物として灰分中に残留し、特にバナジウムを多く含む灰は高温伝熱面に溶融状態で付着します。
伝熱面の表面は、その母材金属の酸化皮膜で覆われていて、酸化の進行を防いでいますが、この上に付着したバナジウムなどを含む灰が融剤となって酸化槽を溶かし腐食が進行します。また、ナトリウムが存在すると硫黄酸化物と結合して硫酸ナトリウムを生成し、これにより五酸化バナジウムの腐食作用がさらに促進されます。このような高温腐食をバナジウムアタックといいます。
低温腐食と高温腐食の防止対策は表のとおりです。
重油焚きの火力発電設備では、石炭のようにガス中にSO
3を中和するフライアッシュが存在しないため、温度が低い領域ではSO
3がミスト化し、機器の低温腐食の原因となります。これを防止するため、乾式または湿式の対策がとられています。乾式処理の対策としては、アンモニア(NH
3)ガスを煙道内に注入し、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)(硫安)として固形化させ、電気集じん装置で捕集する方式が一般化しています。湿式処理としては、エアヒーター以降の運転温度を酸露点以上に高く維持して硫酸による低温腐食ゾーンを回避し、湿式脱硫装置でばいじん除去と脱硫を同時に行う方式があります。この場合、ガス中のSO
3は微細なミストとなり脱硫設備を通り抜けるため、後に湿式電気集じん装置を設置しているケースが多いです。
表.低温腐食と高温腐食の防止対策
| 防止対策 |
低温腐食 | ①硫黄分の少ない燃料を使用する。 ②空気予熱器やエコノマイザー(節炭器)の表面温度を酸露点以上に保つ。 ③空気入口にバッフルを付けて、熱交換器内のガスの流れを一様にする。 ④燃焼ガス内のSO3を吸収あるいは化学的に中和するため、粉末状の酸化マグネ シウム、ドロマイト、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛などを二次空気に混ぜて燃 焼室内に吹き込む、これらは、燃焼ガス中のSO3を吸収、あるいは化学的に中 和する。 ⑤重油に対して約0.06%(質量)のアンモニアあるいは約0.04%の複素環式アミ ンを燃焼ガスに添加すると腐食を少なくすることができる。 ⑥できるだけ理論空気量に近い空気量で完全燃焼させ、排ガス中の酸素濃度を下 げてSO2からSO3になる量を低減すると硫酸の生成量を少なくできる。発電 所のボイラーのような大型のもので実施されている。 |
高温腐食 | ①高温部の過熱器、再熱器の伝熱面の表面温度を下げるよう伝熱面の配置を考慮 する。 ②付着物をできるだけ落とすようスートブロワーを適切に配置する。 ③ドロマイトなどの添加剤の注入により灰の融点上昇を図り、高温部での灰付着 を少なくする。 ④バナジウム、ナトリウムの少ない重油を使用する。 ⑤定期点検などを利用し、スケールの除去を行う。 |