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塗装技術の門

塗装・塗料をはじめとした内容を掲載したブログです。工業に携わる皆さまの調べものにお役に立ちたいと思っています。

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JISハンドブック 30 塗料 (30;2020)


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ミストコート(mist coat)




 被塗物が多孔質である場合、この上に通常の塗装を行うと、発泡して塗膜乾燥後にピンホールやふくれ状またはクレーター状の塗膜欠陥が生じます。これを防止するための封孔処理の方法としてミストコート方式があります。
 代表的には、重防食塗装系において、無機ジンクリッチペイントの上にエポキシ樹脂塗料下塗りを塗装する場合に、ミストコートの塗装が必要とされています。無機質ジンクリッチペイントの塗膜は多孔質で。通常塗膜中に10~30%の空隙(ボイド)があるといわれています。この上に通常の塗装を行うと、空隙中の空気が塗料と置換されて塗膜表面から抜け出すことにより泡やピンホールが生じることになります。ミストコートは、エポキシ樹脂塗料下塗りを塗装する前に、例えばエポキシ樹脂塗料下塗りを約30~60%希釈したものを塗装するものであり、このミストコートにより空隙中の空気をあらかじめ置換充填してその後の塗装で発泡しないようにすることができます。
 ミストコートの要件としては、使用する塗料は、無機質ジンクリッチペイントと付着性のよいことはもちろんでありますが、空隙内の空気と置換しやすく、置換後に発泡などの形跡を残さない程度の適正な低粘度にする必要があり、塗料により希釈率は多少変動しますが、通常30~60%くらいとされています。
 また、ミストコートを行う場合は、無機質ジンクリッチ塗膜の塗膜状態で空隙量が異なり、吸い込み量が異なってきますので、均一にしかも置換発泡が十分行われるよう十分な膜厚(塗布量)になるよう注意が必要です。

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ジンクリッチペイント(zinc rich paint)



金属亜鉛末を80~90mass%配合した塗料のことをいいます。防錆機構は、亜鉛末による犠牲陽極作用、および、亜鉛と外来腐食因子や炭酸ガスなどとの反応によって生ずる塩基性析出塩(塩基性塩化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛など)の封孔作用や、皮膜形成による遮断作用が考えられます。従って、塗膜の損傷で鋼面が露出してもさびが広がりにくいのです。亜鉛末は溶融亜鉛を噴霧冷却して製造され、通常1~10ミクロン程度の球状粒子になります。
 使われ方は樹脂などにより、下表のように分類されます。

表.ジンクリッチペイントの分類
用途別ジンクリッチプライマー(一時防錆プライマー)
厚膜形ジンクリッチペイント
樹脂別有機質ジンクリッチペイント・・・エポキシ樹脂系など
無機質ジンクリッチペイント・・・エチルシリケート系、
              アルカリ(Na、K)シリケート系など
硬化
形式別
ポストキュアー形・・・アルカリシリケート系でのリン酸溶液硬化処理など
セルフキュアー形・・・自然放置乾燥のもの。湿気硬化反応などによる
亜鉛
濃度別
ジンクリッチプライマー・・・塗膜に亜鉛を80~90mass%含み、防食性に特色
低濃度ジンクプライマー・・・上記より亜鉛含有量が低いもの。溶断溶接性に特色
 一時防錆プライマーは、ショッププライマーとも呼ばれ、ブラスト処理した鋼厚板や形鋼に10~20μmの膜厚に塗装されます。構造体やブロックを建造するまでの一時防錆プライマーについてはジンクリッチプライマーの名称でジンクリッチペイントとは区別されます。樹脂は有機質、無機質ともに使用され、一般に没水部は有機系が、大気部は無機系が優れていると言われますが、どちらにも共用しているケースが多いです。
 低濃度無機質ジンクプライマーも普及し、新無機ショッププライマーとも呼ばれています。これは塗料中に亜鉛以外の顔料を併用して一時防錆の目的を満たしながら、溶断溶接性を向上させ、建造作業環境中に発生する亜鉛ヒューム量が削減できるもので、造船業界で普及しています。
 厚膜形ジンクリッチペイントは、亜鉛末、無機質のアルキルシリケート系または有機質のエポキシ樹脂やアルキッド樹脂、および、ポリアミド、アミンアダクトなどの硬化剤、顔料、有機溶剤を主な原料とし、鉄鋼構造物を建造後にサンドブラストやグリットブラスト処理してから膜厚75μm前後に塗装するもので、長期防錆を目的とする下塗塗料になります。歴史的には亜鉛めっきに相当する厚みと防錆性を有する塗料として生まれました。厚膜形ジンクリッチペイントは、重防食塗装系のベースとなる塗料であります。その上に遮断性に優れたエポキシ塗料下塗を塗って亜鉛の溶解消耗を抑制し、さらに耐候性の優れたポリウレタン樹脂やフッ素樹脂などの上塗り塗料と組み合わせた重防食塗装系は、国内では海上長大橋などでその耐久性が高く評価され、作業性もよいです。
 厚膜形無機質ジンクリッチペイントは、有機質ジンクリッチペイントと異なり塗膜内に多くの空気孔が存在するため、そのまま上塗りすると、塗膜を通じて表面まで逃げた空気がピンホールとなり、また、途中までの空気は泡となってしまいます。そのため、次の工程に先立って、その工程に使用する塗料を霧状(mist)に薄く塗装するミストコート(mist coat)を特に間に入れる必要があります。ミストコートは、無機質ジンクリッチ塗膜の上に塗る塗料の場合はエポキシ樹脂塗料を希釈剤で30~60mass%に希釈したもので、粘度が低いため空気孔内に浸入し、内部空気と置換して内蔵空気を排除する機能を持ちます。
 エチルシリケート系厚膜形ジンクリッチペイントは単一塗膜だけで、船舶の石油製品タンクやバラストタンク内面に使用されています。アルカリシリケート系厚膜形ジンクリッチペイントは水系塗料で強靱な塗膜を形成しますが、フラッシュラストを生じやすく作業性に難点が大きいため、国内では普及していません。現在では、無機質ジンクリッチペイントといえばエチルシリケート系が一般的です。

関連用語:ミストコート

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さび止め顔料(rust inhibitive pigment, anti-corrosive pigment, rust preventive pigment)




 塗膜下腐食を化学的に抑制する作用を有する顔料をさび止め顔料と呼びます。わずかな水分、酸素などの腐食性物質が塗膜を透過し、素地金属面に到達しても、塗膜下腐食の進行を抑える目的で使用されます。作用機構により次の3種類に分類されます。
 鉛丹(Pb3O4)、亜酸化鉛(Pb2O)、シアナミド鉛(PbCN2)、塩基性クロム酸鉛(PbCrO4・PbO)、塩基性硫酸鉛(3PbO・PbSO4・H2O)など、油性系および油変性合成樹脂系バインダーと反応して金属石けんを作る性質のあるものを塩基性顔料と呼びます。この作用による塗膜の遮断機能の向上、顔料自身および金属石けんの抽出水の化学的腐食抑制作用によって塗膜の防食硬化を向上します。
 ジンクロメート(主成分はクロム酸亜鉛H2CrO4Zn)、ストロンチウムクロメート(SrCrO4)などは強い酸化性のクロメートイオンを溶出し、これらの可溶性成分の不動態化作用により防食作用を行います。このような機能を有する顔料を可溶性顔料と呼びます。
 さび止め顔料として用いられる金属粉顔料は亜鉛末であり、ジンクリッチペイントとして広く使われています。これは亜鉛末の電気防食作用を基本とした塗料になります。
 以上述べたように従来利用されているさび止め含量は重金属を含むものが多いため、最近これを含まないものが開発され実用化されています。リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO4)、メタホウ酸バリウム(BaB2O4)などがあります。
 なお、アルミニウム粉、MIO顔料(micaceous iron oxide、主成分は酸化第二鉄α-Fe2O3)などもさび止めを目的とする塗装系によく用いられる顔料でありますが、薄片状や雲母状の顔料による腐食因子の遮断機能、塗膜の耐候性などの向上、着色などの目的に使用されており、腐食の化学的抑制作用を有するものではありませんので、さび止め顔料とは呼ばれません。

関連用語:ジンクリッチペイント

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